あの日の世界で君を見た──

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日本の空は、いつだって簡単に人の手で変えられちまう。 さっきまで良い天気だったのに、今では大きな鉄の雨が降ってきちまっている。 当たったら、一溜りもねえんだろうな…。 「兄貴、何やってんだ!早く逃げるぞ!」 ふと俺の手を引いたのは、弟の和彦(かずひこ)だった。 いかんいかん、俺としたことがぼうっとしていた。 和彦の助けがなけりゃ、今頃三人仲良く火だるまになってたとこだったな。 「まさ(にぃ)待って!早いよっ」 もう片方の手には一番下の妹、幸代(さちよ)が早くも根を上げ気味であった。 さすがに七つになったばかりの子には辛い経験だろう。 体力的にも限界で、足を止めざる終えなかった。 「頑張れよ幸代!死にてえのか!」 「死にとうないよ!」 「だったら足動かせ!そんなじゃ俺ら一瞬でお陀仏だぞ!」 「う、うう…!」 「喧嘩するな二人とも。和彦、幸代はまだ一桁の女なんだぞ。怒ったって仕方ないだろ。幸代、ちょっと言われたくらいでめそめそすんな。女の涙は嫁入りの時って母ちゃん言ってただろ」 二人の仲を取り持つように肩を組む俺こと(まさる)。 名前とは裏腹にあまりにも頼りない兄としてこの二人には有名な出来損ないだ。 きょうだいの中で一番しっかりしているのは間違いなく次男の和彦であることは明確であ… 「いいからさっさと逃げるぞ!馬鹿してる場合じゃねえだろ!手を回してくんな気色悪い!」 兄の威厳、ここに死す…もう既にないけど。
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