あの日の世界で君を見た──

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「ところでお嬢様」 部屋から出ようとした瞬間、黒野は私に振り向いて口を開いた。 「黒野 (まさる)という人物はご存知ですか」と。 …は? 誰だそいつは。 奴と同じ苗字だけど、ひょっとして前の担当に兄妹の一人がいたのかなぁ…と考えさせられたが、 「知らんなそんな奴は」 「そうですか、存知ませんか…では教えて差し上げましょう」 そう言って黒野は再びこちらに戻ってきて…… 「…うっ」 私の腹部にナイフを突き刺してきた。 「弟妹を火の中へと(いざな)い、そして貴方に怨みを持って生涯を終えた…私のご先祖様です」 「……」 あぁ…奴の事か。 戦時の中で洗脳された憐れな人間の一人…。 何も期待してなかったから名前とか聞き出さなかったなぁ。 人類誕生、キリスト教の最後、戦国時代、黒船来航、色んなものを見てきたがどれもつまらなかった。 だけど君は違った… 私の人生にここまでの影響及ぼしてくれるなんて…感謝しかないね。 「お嬢様、何か遺言はございますか?」 黒野は私にそう囁いた。 この世に何の未練もないから遺言なんてないんだけどな… 「君の人生…利用して悪かった……」
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