あの日の世界で君を見た──

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和彦(かずひこ)、聞いた通りだ。幸代(さちよ)の指示で動いてくれ」 「…兄貴は?」 「俺は後で追いつく。お前は目の前に集中しろ」 まだ何か言い足りなさそうな弟を俺は無理やり背中を押して前へ進ませた。 「あっかず兄、急に白雪ちゃんが走り出したっ」 俺らの不審を感じたのか、逃げるように女は速度を変えた。 俺にはもう完全に追えない… だが弟なら余裕で追いつけそうだ。 「絶対後で来いよ!死んだら承知しねえぞ!」 そう言い残し、弟達は白雪を追っていった。 大丈夫だ。煙はやばいがここにいてもまだ火が回ってくる気配はない。 俺は家の塀にもたれて尻餅をつく。 そういや喉渇いたなぁ。 俺は荷物の中から水筒を取り出す。 「…あいつらにも飲ませりゃ良かった」 まあそんな間がなかったから仕方なかったが。 喉が潤ってから、次に俺が行ったのは穴掘りだった。 荷物の死守に専念する事にした。 この中には俺らの非常食が入っている。 俺の命なんかよりもよっぽど大切なものだ。 俺が死んでも、これさえ残れば問題ない。 さあ急いで穴を掘るぞ! 荷物二つ分は無理でも、荷物一つ分未満の隠し切れない穴だったとしても、俺が覆い被されば何とか凌げると信じておこう。 死ぬのは、それ程怖いとは思っていない。 お国の為にと、日本人は常に死を覚悟して生きているのだから。 まあこの場合お国の為の死じゃないから、日本男児として唯一の恥とも言えよう。 それでも弟妹を守る事は兄として立派な役目を果たしているんじゃなかろうか。 天皇陛下もきっと許して下さる筈…… どどどどどん! 「⁉︎」 近くから、爆弾が投下した音が聞こえた。 場所は弟達が向かったとこと同じ方向…… 「大丈夫だ…あいつらには守り神が付いている」 俺は二人の無事を祈ってただひたすら穴を作る事にした。 爪が割れようが関係ない。早く火に巻き込まれる前に完成させておかないと……! 「や〜、随分と精が出ますなぁそこの兄さ〜ん♪」
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