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「クラリス・ドゥラノワ。君との婚約は破棄させてもらう」
それは、公爵家主催のティーパーティーが始まろうとしているときのこと。
主催であるヴンサン家の令息、シルヴァンは会場である薔薇園に姿を見せるやいなや、高らかに宣言した。
名指しされたクラリスは、友人の令嬢たちと歓談しているところだった。
驚くことも慌てることもなく、すっとシルヴァンの前に歩み出た。
「シルヴァンさま、ごきげんよう」
クラリスは度々理知的と評される伯爵令嬢。王立学院での成績も常に上位だった。
現在は研究室勤めをしながら、家の仕事を手伝っている。
今日はシルヴァンの婚約者として相応しいように、肌の露出を極力抑えながらもビーズ刺繍の華やかな淡いパープルのドレスを身に纏っている。
ほんの少しきつめに見える大きな瞳の色は、ドレスよりも濃いパープル。淡く輝く金髪は結い上げて、造花の赤い薔薇を挿していた。
「ところで今、わたくしとの婚約を破棄すると仰られたように聞こえましたが」
「あぁ、私は確かに宣言した。何故なら真実の愛を知ってしまったのだ。この、ミラベル・バスチエとの間に」
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