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それから、花束から抜いたままの白い薔薇を、クラリスの髪へと挿した。
「やはり、赤より白が似合いますね」
「ありがとう」
「隣に座ってもよろしいでしょうか?」
「もちろん」
少し距離を置いてアンリが腰かける。
ふたりの間には白い薔薇の花束。そして、爽やかな風が吹き抜けていった。
(嘘みたい。アンリが、わたくしの隣にいるだなんて)
クラリスの胸は静かに高鳴っていた。緊張と昂揚を知られたくなくて俯くと、言葉はさらに出てこなくなる。
しばらくの沈黙の後、先に口を開いたのはアンリだった。
「最近はどんな本を読んでいますか?」
「建国神話と史実を照らし合わせようとした研究者の論文がとても面白くて、全百巻なのだけど、ちょうど五十巻まで読み終わったところよ。……」
本の話題になり、表情明るく一気にまくしたてたクラリス。
しかしアンリが微笑みながら見つめてきていることに気づいて、しまったという表情に変わる。
「少しも変わっていなくて安心しました」
くすくすとアンリが笑みを零した。
「……恥ずかしいわ」
「何故? 昔だって、本の話ばかりしていましたよ」
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