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そのとき、クラリスは気づいた。
(シルヴァンには難しい本ばかり読んで、と非難されていたけれど。アンリは、決してそんなことを言ったりしないんだわ)
ようやく心を覆っていた雲が晴れていくようだった。
「アンリは、どんな本を?」
「私ですか?」
噴水に虹が浮かび上がる。
アンリはクラリスの耳元へ顔を近づけて、そっと囁いた。
「平民がずっと好きだった貴族令嬢と結ばれる戯曲を読んで、想いを馳せておりました」
それからアンリはそっとクラリスの手を取る。
「……何に?」
「もちろん、クラリス様に」
ふたりが見つめ合った後。
アンリは、クラリスの手の甲へ口づけた。
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