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「そもそも、女のくせに私より賢いということはあってはならないのだ。公爵家に嫁ぐ者は、花が咲くような笑顔と愛嬌さえあればいい。なぁ、ミラベル?」
「はい、シルヴァンさまぁ」
見つめ合うシルヴァンとミラベル。もはや、ふたりの世界。
伯爵令嬢たる矜持を保つためクラリスは反論を諦める。
「……承知いたしました。それでは今後は書面にて、婚約破棄の手続きをさせていただきます」
クラリスはスカートの裾をつまむと、左足を後ろへ引き、右膝を曲げて一礼した。見事なカーテシーに、一部から感嘆が漏れた。
くるりと踵を返したクラリスは、背筋を伸ばしたまま薔薇園を後にする。
「はぁ……」
公爵家の館を出て、ようやくクラリスは長い溜め息を吐き出した。
(パーティのはじまる前でよかった。これくらいの時間ならひとりでも帰れるもの)
空は青く、陽はまだ高い。
王都のなかでもこのエリアは特に治安がいいので、日中ならば馬車を呼ばずとも帰れる。
とはいえ、婚約破棄を聞きつけた家から迎えが飛んでこないとも限らないだろう。
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