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アンリの聡明さに投資を決めたクラリスの父親が資金援助して、遊学することになったのだ。
『頑張ってね。あなたは必ず、王国の発展に寄与できるような人物になるわ』
胸が痛んでいることは決して知られないように……。
精一杯の笑顔で、クラリスはアンリを送り出そうとした。
『お嬢さま、ひとつだけお願いがあります』
出逢った頃にはクラリスの方が上だった背丈は、そのとき、同じくらいになっていた。
『何かしら?』
『約束させてください。必ずお嬢さまと釣り合う人間となって、お迎えに上がります』
はいともいいえとも答えずに、クラリスは微笑みを返した。
伯爵令嬢と平民。
身分差は埋められない。よほどのことでなければ婚姻関係を結べない。
(そんなの不可能だって、頭のいいアンリなら分かっている筈)
いつかアンリもアンリで、相応しい相手に巡り合うだろう。
その未来はクラリスの胸に否応なく突き刺さった。
やがて、クラリスも公爵令息との婚約が決まった。
ヴンサン公爵家は浪費が激しく評判も決してよくはなかったが、ドゥラノワ家と同じ派閥だったために婚約を受けざるを得なかった。
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