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(婚約破棄、されてしまったけれど)
クラリスは髪に挿していた赤い薔薇を抜き取った。
造花の髪飾りは貴族の間で流行っていて、例に漏れずクラリスも取り入れている。
ふぁさっ。
「……?」
不意に、クラリスの視界に白い薔薇が映った。
顔を上げると、白い薔薇は一輪ではなく花束。どうやら花束から抜きとった一輪が視界に入ったようだ。
「クラリスさまには、赤より白がお似合いですよ」
聞きなれない男性の声に、クラリスは眉をひそめた。
名前を呼ばれたことへ警戒心を露わにする。
「……失礼ですが、どなたかしら?」
「失礼いたしました。突然伯爵家のご令嬢にお声がけするのは、宜しくないことでしたね。お姿をお見かけして、ついご挨拶をせずにはいられませんでした。私は、アンリ・フゥファニィと申します」
薔薇の花束で見えなかった男性の顔が、ようやくクラリスの視界に入った。
栗色の髪と蜂蜜色の瞳という組み合わせには心当たりがあった。
しかし。
(アンリ……? あのアンリの姓は、プィチだったはず……?)
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