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すっと通った鼻梁、薄い唇。少し冷たい顔の輪郭。
すらりと背が高く声の低い青年は、クラリスの記憶に存在しない。
さらに、図書室のアンリはこんな風に流暢に語ることのできる性格ではなかった。
アンリと名乗った青年は片目を瞑って、楽しそうに告げた。
「クラリスお嬢さま。このアンリ、あの日の約束を果たしにまいりました」
「待ってちょうだい。ほんとうにアンリなの……?」
クラリスは驚いて立ち上がった。
頭みっつ分の身長差。
まるで貴族のような身なりのアンリは、懐から黒縁の眼鏡を取り出してかけてみせた。
「この度、侯爵家の養子となりました」
それでもなお、クラリスは違和感を拭い去ることができない。
「き、聞いていないわ」
「王都へ戻ってくるまでは伏せておいてもらうように根回ししていたからです」
(フゥファニィ家。たしか、北方の中立派。ゆくゆくは爵位が上がるだろうと噂される名家。そこに、アンリが?)
同時にクラリスは納得した。
(アンリの頭のよさは、平民のままでは活かしきれない。侯爵家と縁を持てたのは双方にとって利益となる。だけど)
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