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「中途半端な家との婚約ならば、伯爵家との縁を強くしたい相手側から破棄されることはないでしょうが、位だけでなく悪評も高い公爵家であればこうなることは予想できていましたから。まさか、あんな簡単に落ちるとは」
アンリは人差し指を立てて、己の唇へと当てた。
「バスチエ男爵家は資産枯渇諸々により間もなく男爵位を剥奪されるでしょう。ご令嬢は復興のために多方面へ必死になられているようですが、どうなることやら」
悪戯好きな子どものように片目を瞑るアンリ。
クラリスはわざとらしく肩をすくめてみせた。
「……驚いた。あなたって、そんな策略家だったかしら」
「平民から貴族となるために、色々と勉強させていただきました」
アンリがわざと恭しく頭を下げてくるので、クラリスはつい吹き出してしまった。貴族らしからぬ反応をしてしまったことに慌てて口元を隠す。
「クラリスさま。お返事を伺いたいのですが?」
すっと見据えてくるアンリに対して、クラリスは、改めて背筋を正す。
「アンリ・フゥファニィさま。その申し出、心から喜んでお受けいたします」
ふわっとアンリが破顔する。
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