夏の大三角

5/15

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
…。 “園内をジョギングしていた女性によりますと、現場から走り去っていく若い女性を目撃したとの事です…“ “警察は第一発見者である女性の証言と、園内の監視カメラのデータを基に、近くに住むN高校の学生Aが何らかの事情を知るとして、捜査を進めています。なお学生Aは事件当夜から消息が不明となっており…“ 「ここじゃないかと、思った…」 潜伏先の体育館裏の倉庫に現れた寺田君は、安堵と切なさの入り混じった表情で話しかけた。 「来てくれると、信じてた」 あの夜、死体を前に呆然としていた私は、その様子を見ていた女性の悲鳴に動転し、その場から立ち去って街を彷徨った挙句、N高校の前に佇んでいた。 うっすらと埃が積もった倉庫に忍び込んだ私は、ただ漠然と時が過ぎることに身を任せていた。 そんな時、倉庫の扉が開いて寺田君はやって来てくれた。 こんな、私の為に。 行方知れずになった私にピンと来て、ここに駆けつけてくれたのだった。 昨夜の状況を足早に話す私。 寺田君は真摯な表情でジッと見つめ、優しく包み込むように親身になって聞いてくれた。 「俺のせいだ!俺が、夏の大三角の話をしたばっかりに、くそっ」 「違うよ。寺田君は関係ないよ!私がただ、寺田君の好きな歌詞に興味があっただけで。つい実物をこの目で確かめたくなったの…」 「くっ…。それがこんな事態に発展するとは。俺の一番大切な人を…こんな取り返しのつかない目に合わせてしまうなんて…」 「寺田君…今なんて?」 「いいんだ。もう何も言うな。俺が君のことを守るから」 「ううん。私、警察に行くよ。全て話せば済むことだから。初めからそうすれば良かったのにね。バカだよ本当に私って。ううっ」 「だめだ、行っちゃだめだ!俺を置いてかないでくれ…がばっ」 「うっ、痛い。…そんなに強く抱きしめたら、私壊れちゃうよ」 「はっ、ごめん。つい力が」 「あ、離さないで。もう少しこのままで、いさせて…くれますか?」 「もう離さない!絶対に…離さないよ!」 「うれしい。…私の全てをあなたに預けるわ。運命さえも」 「三条さん…。わかった、俺は覚悟を決めたぞ!一緒に逃げよう!」 「ああ、私も離さない!…むぎゅうっ」 「…明美」 「!?…あ、だめ…」 …。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加