押しかえした肩

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押しかえした肩

※元の相手との行為の描写があります。 ※後ろから体の自由を奪われる描写があります。 「あ、あっ、っぁ」 「っ、はぁ」  私に熱をうずめる蘇芳様は、何度も何度も腰を振る。そのたびに私は出したくもない声を吐いた。 「くっ」 「あぁっ、ん、んんっ」  体の中で熱が弾ける。頭では竜胆との行為を想像していた私も、体を震わせ熱を手放した。 「はっ、はっ」 「っ、はぁっ」  蘇芳様の元へ戻ってから、体を毎日求められた。以前はそれでも平気だったが、今は道具として扱われる度に心が擦れ切れている。  蘇芳様に抱かれている時、私はただ、竜胆に会いたいと思っていた。私に触れる手が竜胆のものであれば、どんなに良いだろう。 「松葉、竜胆のことは聞いたか」 「……いえ、なにも」  蘇芳様の口から出た名に内心慌てる。何故か嫌な予感が胸をかすめた。 「先日死んだとの知らせが入った。これでお前を知るのはこの世にまた俺ひとりだ」 「え……?」 「お前にとっては最早どうでも良い話だろうがな。さぁ次だ、松葉」  「死んだ」という言葉の後は、何も耳に入ってこなかった。当然受け止める事はできず、ただ、頭で蘇芳様の声を繰り返す。  ずるりと抜いた熱をもう一度私に入れようする蘇芳様。呆けている私には気づかずに、また行為を続けようとする。  何も聞きたくないし、何もしたくない。こんな心持ちでは蘇芳様に応えることはできない。初めて蘇芳様の肩に手をかけた時、部屋の外から声が聞こえた。 「申し訳ございません、蘇芳様。急ぎご確認いただきたいことが……」 「……チッ。松葉、少し待っていろ」  舌打ちをした蘇芳様の体が離れていく。その背が部屋の外へ消えると、私は膝を抱えた。 「竜胆様……」  死んだというのは本当だろうか。私の心が離れたことを察した蘇芳様の嘘という可能性もある。でも、本当だったら?  竜胆は今でも私を想っている、いつかあの朗らかな笑顔の元に帰れる。そう考えて蘇芳様との行為に耐えてきた。また会うために我慢していた。それなのに──。  竜胆がこの世にいないとなれば、私もここに留まる理由はない。 「……っ」  誰か嘘だと言って欲しい。何も確証がなくても、安心が欲しい。熱い目からはぼろぼろと涙がこぼれ、頬を濡らした。  蘇芳様が帰ってくる前に自室に戻らなければ。待っていろと言われたが、具合が悪いと言えば見逃してもらえるかもしれない。  蘇芳様との夜を断ったことはないから、どうなるかはわからない。けれど、このまま蘇芳様に抱かれることなんてできなかった。  一瞬、部屋の戸が開いた気配がする。空気が動き、誰かが入ってきたのだとわかった。  涙に気づかれないよう、そっと顔を上げる。しかし暗い部屋には人の影はなく、戸もきちんと閉まっていた。 「……? 蘇芳様?」  どこからか視線を感じる気がして立ち上がる。後ろに人の気配がしたと思った時には、口を覆われていた。突然のことに体は硬直する。しかし外に知らせるため、咄嗟にもがいた。 「っ! ん、んんー!」 「待て松葉、騒がないでくれ」  言葉にならない声を上げていたが、自分を呼ぶ声に聞き覚えがあり動くのを止める。バクバクとうるさい心臓は、今度は別の理由から激しく脈打った。  騒ぐのを止めた私から手が離れていく。 「……乱暴にしてすまない。儂だ、竜胆だ」 「竜胆様……!」  賊だと思っていた相手に振り向くと、いつでも想っていた人物がいた。驚きや嬉しさ、興奮で、大きな体にぎゅうっとしがみつく。  いつものように背中をさする手が愛しくて、安心感に包まれた。 「竜胆様……竜胆様っ、ずっとお会いしたかった」 「あぁ、松葉、儂も同じだ。おぬしと共に生きたくてここまで来てしまった」 「どうやってここに……? 先程あなたが死んだと聞きました……やはり偽りだったのですね」  竜胆は生きていた。こうして体に触れ、体温を感じることができる。その事に心底安心し、誰にか分からない感謝が溢れた。  一度体を離した竜胆は、私の肩に手を置く。真剣な眼差しで私の顔を覗き込んだ。 「このような行為、おぬしも危険に巻き込むゆえ躊躇したのだが……儂はおぬしと共に生きたい。松葉がここに残りたいと申すなら今すぐ去ろう。しかし儂とありたければ共に来てほしい。察しはつくだろうが、これまでのような暮らしではない。人の少ない地で隠れて暮らすことになろう」  強い決意が宿る瞳。この人は私と生きることを本気で望んでいる。そのことが疑いようもなくわかった。  ぼやけた視界の中、しっかりと頷く。 「もちろん、共に行きます。竜胆様といられるのなら、そこより素晴らしい場はどこにもございません」  頷いた私に、竜胆は泣き笑いのような表情を浮かべた。きっと私も同じ顔をしているのだろうと思う。 「外に馬を用意しておる。急ぐゆえ揺れるだろうが辛抱してくれ」  私の手をとった竜胆が部屋の戸へと歩き出す。ここにある竜胆の存在を噛み締めるように、強く手を握り返した。
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