iRiS

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 ――西暦2000年1月1日 午前8時。『海風 藍里』宅、玄関。  お正月、今日は元日です。  私、『海風 藍里』は16歳の高校2年生。あ、でも、2月で17歳です!  そんな私は、お母さんに着物の着付けをしてもらって、これからお友達との初詣に出かけようとしているところです。  でも、玄関まで来たところで、お父さんが私のことを呼びとめてきました。 「藍里、父さんからお前にプレゼントだ――」  そういって、藍色の宝石が埋め込まれた銀のブレスレットを、父は半ば強引な感じで私に手渡してきます。  一瞬、『どういった風の吹き回しなのだろう?』と私は躊躇いましたが、父の気まぐれはいつものことだと思い返し、気にせずそれ受け取りました。  ――この時の父の様子は、普段と少し違う、というか、まるで別人のような違和感があり、少しだけ不気味に感じました。 「いいかい、藍里? これはとても大切な物なんだ。肌身離さず、いつも身に付けていなさい。お前を守ってくれるお守りだと思いなさい」 「え? ――はい、大事にするね」  父の目の前で、私は父から貰ったそのブレスレットを左手首に着けました。  ――銀色のブレスレット、吸い込まれそうな藍色の宝石、とても綺麗なのに、どうしてかとても不気味で、とても気味が悪い……。ずっと見つめていると、なんだか気分が悪くなりそうです。 「では、藍里、これから父さんは出かけないといけない」 「あ、はい、行ってらっしゃい」  私は、この宝石に吸い込まれそうな気持を抑え、慌てて父に返事をします。 「藍里、お前も初詣に行くのだろう? 気を付けて行ってきなさい」 「はい、気を付けます。お父さんも気を付けて」  私は父を見送り、初詣に行くための準備をすることにしました。  和服の着付けを母にしてもらっているとはいえ、着なれない着物はなんだか窮屈です。  私が玄関のドアを開けて、外に出ようとしたその時―― 「藍里ちゃん、ハンカチはちゃんと持ちましたか?」  後ろでこっそり見守っていた母に声をかけられました……。 「はい、ちゃんと持っています! もう、私は子供じゃないんだから……」  母は私のことを、いつまでたっても幼子のように扱うのです。まったく、失礼しちゃいますね! 「ふふ、ごめんなさいね。初詣、楽しんできてくださいね。それと、気を付けて行ってくるのですよ」 「はい、行ってきます!」  私は母に挨拶をして家を出た。  私は携帯電話で友達からの新着メッセージがないことを確認して、急いで駅に向かいます。  ちなみに、この地域の住人たちは、ここから数駅先にある、とある有名な神社へと初詣に行くのが恒例となっています。  私は、駅に着くと、券売機で切符を買い、駅のホームへと向かいます。  私がホームに着くと、間もなく電車が到着したので、そのまま電車に乗り、空いている席に腰掛けます。  席に座っている私は、なんだか、いやな予感がします。  私、先ほどから、とても、気分が、悪いです――。  もしかすると、父から貰ったこのブレスレット、何か、いわくつきの代物なのでは……!? こ、これは、神社で厄払いをしてもらうしかないです!    できるだけ具合が悪いというのを考えないようにしてみます……。  外の景色を見ながら気を紛らわしつつ、降車駅に到着するのを待ちました――    電車を降り、駅を出て、神社までの道のりを、覚束ない足取りでゆっくりと進みます。  やっと、神社が見えてきました―― 「藍里~! こっちだよ~」  神社に着くと、いつもの友達、3人が私を迎えてくれました。  菜々ちゃん、真由里ちゃん、野乃花ちゃん。  私は最後の力を振り絞り、友達の元へと駆け寄ります。 「ごめんね、待ちましたか?」 「ううん、私たちも今さっき着いたところだから」 「あれ、藍里? なんだか顔色良くないよ?」 「あ、ほんとだ、ほんとだ!」  3人は私の体調不良に気が付いてしまったようです。せめて、参拝だけでもして行きたいのです。できれば……このブレスレットのお祓いも。 「ちょっと、朝からあまり具合が良くなくて……ごめんなさい、参拝だけして、今日は帰りますね」 「うん、無理しないでね、藍里」 「残念だけど仕方ないね~」  神社に入ると、私は一礼して鳥居をくぐりました。手水で左手を清め、右手も清めます。  そして、参拝です。私は神前に向かい、2回お辞儀をしてから、手を2回打ち、手を合わせてお祈りをしました。最後に深いお辞儀をしてその場を去ります。  参拝を済ませた私たちは、お互いの顔を見合わせます。  明らかに、私の体調が良くないのを気にしています。  仕方ないです、お祓いは諦めます。 「ごめんね、私、今日は、ダメみたいです……」  曖昧な表現だけれども、みんなに意味が伝わりそうなニュアンスで今の状態を表現します。 「あ、うん、私たちなら大丈夫だよ! 藍里、気を付けて帰ってね」 「お大事にね~」 「具合よくなったらまた連絡して!」 「藍里、私、送って行こうか?」 「ううん、大丈夫、ありがとう」  私はこれ以上、みんなに気を遣わせまいと、ありがたい申し出をやんわりと断りました。 「そっか! 体調良くなったら連絡してね」  ――私は3人と別れた後、参道沿いのベンチに座って少し休むことにしました。なんだか、周囲が騒がしい気がしますけど、気にせず休みます。正直なところ、野次馬はよくないと思います! といいつつも、ちょっとだけ気になります。  でも、今は気にする気力もないのです。  私はうつむき、ゆっくりと瞼を閉じます。心を無にして、気分が悪いことを忘れます。そして、『私は正常、私は元気、私は具合悪くない、私は素敵!』と自己暗示をかけるのです。  そうして、私の心の声と向き合うのです――
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