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「……っ、怖いんだ」
はい、と先生の手のひらが俺の背中を優しく撫でる。
「ずっと……ずっと、怖かった。誰かを好きになるのが。俺の中にはあのひとを好きな俺がいて、誰を好きになっても、あのひとの代わりにしてるんじゃないかって……」
先生は黙って俺の髪を手ぐしで梳いていく。
「先生のことだって、最初歯が綺麗なとこが似てるなって、なんでもあのひとが基準になっちゃって、そんな自分がイヤで」
もう涙でぐしょぐしょの俺の顔を先生の指が撫でていく。あったかい。
「――本気にならないって、決めてたのに」
もうこんなにも好きになってる。
「……無理に忘れる必要はないと思いますよ」
穏やかな先生の声が鼓膜に届く。
「その人を好きな永山さんがいたから、今のあなたがいるわけですから」
「先生……」
琥珀色の瞳が俺を射抜く。
「もう俺、言っていいんですよね?」
瞳の中に俺が映る。
「永山さん……好きです。その、あなたの中にいるもうひとりのあなたごと。――
愛してます」
自分の気持ちに素直に。正面から向き合って。
「俺も……先生のこと、好き」
言葉にすると、気持ちが溢れ出す。
俺は、司先生のこと好き。こんなにも好き。
「永山さん……」
あ。ずっと見たかった、先生の極上の微笑み。すごく綺麗で……すごく扇情的。
ぼんやり見惚れていると、ゆっくりとその顔が近づいてくる。唇が重なる刹那、はっと動きが止まって先生が「いいですか?」って尋ねてきた。
「もう、訊かなくていいよ」
くすりと笑って大好きなひとの頬を両手で包む。
「先生、俺……先生と、ちゃんとエッチしたい」
ちゃんと向き合いたい。自分にも、先生にも。
「……はい」
触れ合う唇に、ぞくんと痺れるような恍惚感が全身を覆った。
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