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14.
あれよあれよと車に乗せられ、俺は先生の部屋まで連れてかれた。そして今、ソファに横並びに座っている。
ローテーブルに置かれたコーヒーカップを見るともなしに眺めていると、「あの」と先生がようやく口を開いた。膝に抱いたクッションをぎゅっと握りしめる。
先生、怒ってるかな。怒ってるよね。全然メッセージも返さず、返したと思ったら『もう会わない』って一言告げただけの俺のこと。
何言われても仕方ない。俺も覚悟を決めて、顔を上げた。先生も俺をまっすぐ見つめてくる。その瞳には真剣な光が宿っていた。思わず姿勢を正す。
「クリスマスの夜……あなたが泣き止まないのが気になってました」
あーそれは。
もう最後かなって湿っぽくなってたから。
「いつもと様子も違うし、変だなとは思ってたんですけど……そしたらあのメッセージが来て」
先生の膝に乗せられた拳が少し揺れる。
「もしかして無理させてたのかなって。俺の独りよがりで、本当は嫌なのに、無理して付き合ってくれてたのかなって」
「先生……」
違う。そうじゃない。悪いのは俺なのに。なんて言ったらいい? 優しいこのひとは、また一人で背負いこもうとしている。
俺が口を開く前に、先生が続ける。
「――俺、あなたには感謝してるんです。凪に比べたらまだまだですけど……こんなに笑えるようになったのはあなたのおかげです」
違う違う。
「それは、先生ががんばったからで……俺何もしてない」
微かに口角を上げる先生。すごく眩しい。
「いえ。永山さんのおかげです。あなたに会えなかったら俺はずっと味気ない人生を過ごしてました。あなたが俺に彩りのある時間をくれた。だから……ありがとうございます」
ぶんぶんと首を横に振って否定する。そんなんじゃない。そんな立派なもんじゃない。
どうしよう。
なんて声をかけていいか分からない。俺は今までちゃんと恋愛をしてこなかったから。ずっと逃げてただけだから。
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