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「あの日……あの初恋のひとだという人に会った日」
先生の瞳に少し陰がよぎる。
「すぐに分かりました。ああ、まだこのひとのこと好きなんだなって」
寂しそうに眉を下げる先生。……そんな顔もできるようになったんだな。てか、全然隠せてなくて恥ずかしい。
「自分は恋愛しないって言って、誰も自分を好きにならないように……相手を傷つけないようにしてるんだなって。……優しいひとだなと思いました」
「違うよ。俺はただズルいだけだよ」
そこは思いっきり否定する。そんないいもんじゃない。
「自分が傷つきたくないだけ。今度こそって好きになった相手のこと、本気じゃなかったって、勇成さんより好きになれないって気付いて、ショック受けたくないだけ――」
そこまで言って、口を噤んだ。こんなこと今更言ったって。先生困らせるだけだよね。自業自得だから仕方ない。
目を逸らし、ごめんね、と笑おうとしたけどできなかった。喉がつまって、目頭が熱くなってきて。ダメだここで泣いたらますます先生困っちゃう――。
ふわりと先生の腕が俺を引き寄せた。
「せんせ……」
「――大丈夫ですから。全部、吐き出してください。今の想いを。俺が――全部受け止めますから」
腕に力がこもる。
「あなたのすべてを、ちゃんと受け止めますから」
司先生の言葉が、教会の鐘みたいに俺の中で響き渡る。その鐘の音色に押し出されるように、ぽろぽろと涙が溢れてきた。
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