彼を幸せにするたったひとつの方法

プロローグ

　俺には兄と姉と弟と妹がいる。
　そう話すと、たいてい「おお、コンプしてんじゃん」とか「フルコンボ」とか言われる。

　俺だって好きでそう生まれてきたわけじゃないけど。まあ話のネタにはなるのでいいかな、くらいで。
　だけどおかげで小さい頃はテレビのチャンネル争いやご飯のおかず取り合いなんかは壮絶だった。誰に似たのかみんな自己主張激しかったからな。

　特にど真ん中に生まれついた俺は、親にもよく存在を忘れられるくらいで……意図してか知らずか、名前に「影」までついちゃってるし。そうそう微熱くらいじゃ気づいてもらえない。具合が悪いなら悪いと声を大にして叫ばなければならない。

　好きなものは好き。嫌なものは嫌。はいっと手を挙げて、意見を述べる。そうでないと埋もれてしまう。山盛りの唐揚げは遠慮しているとあっという間に空になる。三時のおやつも同様だ。

　そういう環境も影響しているかもしれない。高校生の頃、初めて一人でカフェに入って。初めてシュークリームまるまる一個、誰にも邪魔されずに一人で食べていいんだって思ったら、すごく感激してしまって。

　その時の感動が忘れられなくて、甘いもの大好きになっちゃったのかも。