メアリー・ブラウン

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メアリー・ブラウン

メアリー・ブラウン、19才。 生まれ落ちたその日に、彼女がたどる人生は決められていた。 ずっと子を授かれなかった彼女の母が思い詰めた末の不義密通。 その果てに生まれた子どもだったから。 密通が露見した母は離縁され、父は再婚し生まれたのがアン。 生に絶望した母は自死を選び、まだ幼かったメアリーはアンの遊び相手として屋敷に残ることを許された。 「幼い頃君が18になったら迎えに来るからっておっしゃいましたでしょう?あの日からずっとお慕いしておりました」 そして、成長した今はメイドとしてブラウン家で働いている。 「違う。それは君に向けた言葉ではな……」 夢見る少女のような瞳で彼女は淀みなく話し続ける。 「でもアンったら、両家の約束だからあなた様の許に嫁ぐなんて言うんだもの。腹立たしいと思いませんこと?」 美しいアン。血の繋がらない妹。 恵まれた者はどうしてああも無自覚に傲慢になれるのか。 生まれた時から全てを手にしていた彼女。 だからこの世でたったひとりくらいはわたしがもらってもいいでしょう? 「愛しています」 凍りついたように動けずにいるヘンリーに歩みよったメアリーは彼の頬を両手で包み、ふたりの唇が重なる。 彼女の口内を満たしていた液体が彼の口内に流れ込み、ごくりと喉が鳴ったところでメアリーは唇を離す。 数秒後、ヘンリーは吐血し絶命した。 床に倒れた彼の身体を抱きしめ、血まみれのメアリーは聖母のような慈愛に満ちた微笑みを浮かべる。 「わたしたちはずうっと一緒」 たとえこの命が果てても。 それは最初で最期の接吻が結ぶ永遠の約束。 【おわり】
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