成 1 (愛)

1/4
前へ
/220ページ
次へ

成 1 (愛)

 携帯電話を耳にあてソファで横に寝そべっていた僕がいた。  「芥川賞、おめでとうございます」  電話の向こうから声が聞こえる。  ソファで、昼寝をしていた僕が、慌てて飛び起きた。  ・・あぁ、夢だ。  願望が強すぎて夢か現実か区別がつかなくなる。微睡んでいる頭をスッキリさせたくて、冷蔵庫に入れていたコーヒーを取りに行った。  ピンポンとチャイムが、いまにも切れそうに頼りなく鳴った。10年間一度も替えた事の無い電池が切れそうだ。  チャイムを鳴らして尋ねて来る人が殆ど居ないので、こんなに長く電池が持ったのかなぁと思いつつ、来客の顔を思うと、気が重くなった。  平成の大合併で、町から市に昇格した市に住んでいる。田んぼが多いのどかな地域だったのは10年前だ。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

77人が本棚に入れています
本棚に追加