無造

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無造

 ガラクタを集め部屋らしき物を作る。その部屋を集め、今度は家の様に仕上げる。家族が居ない俺に家族は作れない。家庭を知らない俺に家庭は築けない。全ては見よう見まねの一人遊び。おままごとの延長だ。 「琴夜(ことよ)」 ふと、口から漏れた言葉に反応した彼女は、一度手を止め振り向いた。 少し微笑み、再び、背を向けた。 ああ、悪い夢でも見てたのか。再び睡魔に襲われ寝返りを打った。 俺はロボットに乗っていた。 仲間が居たんだ。 強くはないが、皆、未来を信じてた。 苦戦の末、敵を破り、俺達は歓喜に包まれた。と、同時にそれ以上の不安を抱えた。この先にあるのは一体何か……これから先はどうなるのかなんて、見当もつくはずはなく……だが、誰も何も言わなかった。それは暗黙の了解だった。 「……っつ……」 暑い。瞼を開けると現実が見えた。そう。俺は俺だった。 何者でもない。 重い体をお越し、飲み物を取りに行った。琴夜はまだ起きていたようで、寝ぼけた俺を見て、手元の編み物を再び始めた。 「器用だな。飽きないのか」 言った後、後悔した。ただの嫌味ったらしい男の言葉だ。 「楽しいものよ。一度やってみたら?」 タバコを吸いながら俺は負けを認めた。 「ああ……。そのうち教えてくれ」 クスッと小さな笑い声が換気扇に飲み込まれて行った。寝起きは嫌だ。もう一度生まれた気持ちになる。死んでいなかった。生きていると思い知らされる苦痛な瞬間が嫌いだ。 全く器用な物だ。さっきのはお世辞でも嫌味でもなかったが言い方一つで変わるものだ。編まれ、組まれ、繋がりが繋がりを作りひとつの列になる。その列がまた繋がり形を成していく。それをただ眺めていた。 「私もそろそろ寝ようかな」 「……あぁ。わかった」 今夜も星は見えない。いつもの事だが、毎晩思う。見えない物に思いを馳せる。全くもって無意味だが、無意味な行動を取るのは、精神を保つために必要だと俺は思っている。だからと言って夜空を見上げるわけではないが……。 記憶の確認? いや、心と体と頭に染み込ませるんだ。髪の毛一本、脚の爪先まで隅々と。五感を全て使い、一箇所も漏らさないように。忘れたくない。忘れ去られたくない。永遠に続けばいいと、どれ程願ったことか。甘い匂いが心地良く、思わず安心しそうになる。だが、果たして俺と同じ気持ちなのだろうか? 不安に襲われ、それを描き消そうと再び繰り返す。これはただの自己満足?自分の存在を確かめる為? 別の不安がまた生まれた。違うはず。そうだ、決してそうじゃない……。 「居なくならないでくれ」 消え入りそうな声が聞こえた気がした。 「どこにもいかないわ」 甘く囁く声が聞こえた気がした。 羽毛の様な優しさに包まれ、また眠りに落ちた。覚めなければいいのに。このまま二度と。時が止まればいい。うっすら願ったのを覚えている気がする。
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