揺れる思い(2)

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揺れる思い(2)

「君に何もするつもりはない。安心しろ」 「いいか、これから、俺は出掛ける。出ていくか此処にいるかは自分で決めるんだ。鍵はかけない。部屋の中の物は自由に使っていい。強制はしない。わかるな? 自分で決めるんだ」 今日出掛ける予定はなかった。ただ、いつもどうやって過ごしてるのか気になっただけだ。 俺にはもう一つ倉庫代わりに使っている所がある。そこへ行き、中の物を片付けでもしようと思った。日が暮れる頃にまた戻ればいい。きっと、俺の事など気にしている筈はない。 暫く移動し、到着した。サビついていて、なかなか扉が開かない。最後に来たのは大分前だった気がする。ようやく開けると、中の光景に唖然とした。予定通りこれは夜までかかるな。変な所に執着する、悪い癖が出そうだ。  辺りを見回して、人の気配を探った。耳を澄ます。感覚を研ぎ澄まして誰も居ない事を確認する。 そっと、一足踏み出すと、床が軋む音がした。ピタリと動きを止めて、辺りの様子を伺う。何も聞こえない。聞こえるのは風の音だけ。ほっと胸を撫で下ろし、昨日の続きを始めた。 殺風景な部屋。なのに、どこか家庭的。 必要な物は揃ってる。揃い過ぎている。一人で暮らしてる筈なのに。それが不気味だった。まるで家族がいるみたい。 物の位置をずらさないように、元に戻す。 ……本もある……英字だ。 これは日本語?違う、何処の言葉だろう? あった、日本語の本。所々破けてる…… あとは……シャワー……入りたいな…… 浴槽もある。使ってはいないみたい。体が匂う。でも確実にここはバレてしまう。 どう考えても無理。いっそ、同意を得てからの方が浴びやすい……か。 キッチン。灰皿といつも飲んでる瓶。何が入ってるかわからないから、これには触らない。蛇口……水が出るのは知ってる。食事を与えてくれるから。 ベッド……気持ちいいのかな……触りたい。 ここも怖い。どうしてあの人は床で寝るのだろう?権利があるって言って譲らない。 家主なら、権利は自分にあると思うのだけど。 悪い人じゃないのはわかる。でも変わってる。すごく変わった人……。いつも何処へ出掛けてるのかな…… 「何をしてる!! 」 怒鳴り声が聞こえてはっと、振り返った。心臓が爆発しそうだった。辺りを見ても誰も居なかった、声は気のせいだった。 胸を押さえる。ドクドクと、まだ心臓が脈打っている。 ……変わった人。 売り飛ばすなり、いっそ好きにしたらいいのに。 自由だ。強制はしない。 自分で決めるんだ。 そればかり。 どうすればいいの。 救ってくれたのは感謝してる。だけど、どうしたらいいのかは、わからない。 一人で生きて行く。そう決めてはいる。けれど、窓から外を見る度不安になる。 何処で暮らせばいい?どうやって食べたらいい? 今までは苦しかった分、幸か不幸か何も考える余裕がなかった。 そんな暇さえなかった。 自由って一体何なんだろう。 今日も帰ってくるのかな…… また同じことを言うのかな。 何回繰り返すんだろう……不思議な人……
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