30人が本棚に入れています
本棚に追加
揺れる思い(2)
「君に何もするつもりはない。安心しろ」
「いいか、これから、俺は出掛ける。出ていくか此処にいるかは自分で決めるんだ。鍵はかけない。部屋の中の物は自由に使っていい。強制はしない。わかるな? 自分で決めるんだ」
今日出掛ける予定はなかった。ただ、いつもどうやって過ごしてるのか気になっただけだ。
俺にはもう一つ倉庫代わりに使っている所がある。そこへ行き、中の物を片付けでもしようと思った。日が暮れる頃にまた戻ればいい。きっと、俺の事など気にしている筈はない。
暫く移動し、到着した。サビついていて、なかなか扉が開かない。最後に来たのは大分前だった気がする。ようやく開けると、中の光景に唖然とした。予定通りこれは夜までかかるな。変な所に執着する、悪い癖が出そうだ。
辺りを見回して、人の気配を探った。耳を澄ます。感覚を研ぎ澄まして誰も居ない事を確認する。
そっと、一足踏み出すと、床が軋む音がした。ピタリと動きを止めて、辺りの様子を伺う。何も聞こえない。聞こえるのは風の音だけ。ほっと胸を撫で下ろし、昨日の続きを始めた。
殺風景な部屋。なのに、どこか家庭的。
必要な物は揃ってる。揃い過ぎている。一人で暮らしてる筈なのに。それが不気味だった。まるで家族がいるみたい。
物の位置をずらさないように、元に戻す。
……本もある……英字だ。
これは日本語?違う、何処の言葉だろう?
あった、日本語の本。所々破けてる……
あとは……シャワー……入りたいな……
浴槽もある。使ってはいないみたい。体が匂う。でも確実にここはバレてしまう。
どう考えても無理。いっそ、同意を得てからの方が浴びやすい……か。
キッチン。灰皿といつも飲んでる瓶。何が入ってるかわからないから、これには触らない。蛇口……水が出るのは知ってる。食事を与えてくれるから。
ベッド……気持ちいいのかな……触りたい。
ここも怖い。どうしてあの人は床で寝るのだろう?権利があるって言って譲らない。
家主なら、権利は自分にあると思うのだけど。
悪い人じゃないのはわかる。でも変わってる。すごく変わった人……。いつも何処へ出掛けてるのかな……
「何をしてる!! 」
怒鳴り声が聞こえてはっと、振り返った。心臓が爆発しそうだった。辺りを見ても誰も居なかった、声は気のせいだった。
胸を押さえる。ドクドクと、まだ心臓が脈打っている。
……変わった人。
売り飛ばすなり、いっそ好きにしたらいいのに。
自由だ。強制はしない。
自分で決めるんだ。
そればかり。
どうすればいいの。
救ってくれたのは感謝してる。だけど、どうしたらいいのかは、わからない。
一人で生きて行く。そう決めてはいる。けれど、窓から外を見る度不安になる。
何処で暮らせばいい?どうやって食べたらいい?
今までは苦しかった分、幸か不幸か何も考える余裕がなかった。
そんな暇さえなかった。
自由って一体何なんだろう。
今日も帰ってくるのかな……
また同じことを言うのかな。
何回繰り返すんだろう……不思議な人……
最初のコメントを投稿しよう!