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触れる想い(1)
そんな生活は、不思議な事にまだ続いていた。
気づけば随分長いこと経っていた。
その日、俺は疲れきっていた。
仕事の疲れ。家での出来事。休まる暇がない。俺の疲労は限界に近かった。
帰ってきてすぐ、一目散にシャワーを浴びた。酒も飲まず、タバコも吸わず、すぐにでも休みたかった。少し目眩もする。ベッドに転がり横になった。
瞬く間に睡魔に襲われ、浅い眠りに落ちた。
が、目が覚め、事態を把握した俺は、自分の不覚さに憤りを感じた。琴夜の存在だ。ベッドを使うなど、あり得ない事だった。
キッチンへ向かい、顔を洗った。流れる水へ頭ごと突っ込んだ。しばらくそのままでいた。溺れていく感覚に襲われた。
なんとか目を覚まそうとした。
「……どうしたの? 」
聞き覚えのある声がした。
「奇妙な行動を取っても気にしないでくれ。疲れてるんだ」
無愛想に俺は放った。
奇妙なのはいつもの事か。俺は極めて冷静に、この苛つきや疲れの原因を探った。
こういう時、今まで俺はどうしてた?
酒か?タバコか?
……これまでの生活を順に思い出しながら、はっと思い付いた。それが答えだなんて、思わず笑いたくなった。
馬鹿馬鹿しくなった俺は自分で自分を呪った。
人の性か。今此処でなんて、到底出来っこない。隙を見て済ませるか。意味はない。事務的に行えばいい。何も問題はない筈だ。
「悪いが今日は、君の相手をする余裕はない。一人にさせてくれ」
返事はなかった。
元々ずっと一人で過ごしていたんだ。仕方のない事だった。
俺と琴夜は違うんだ。
琴夜が眠りにつくのを待った。
灰皿はタバコの吸殻で溢れている。
何せ泊まりがけの仕事だった。心身共に応えるのも当たり前だった。ここへ戻るのも何日かぶりだった。
仕方なく俺は床に寝た。
なかなか寝付けず、また苛つきを覚える。
「……ねぇ……」
珍しく弱気な声だった。
「お願いだから、ここで寝て」
「断る」
俺は先程の醜態を思い出した。
最悪な気分だった。
「頼むから放っておいてくれないか……」
頼むから君こそ早く寝てくれ。と俺は心の中で呟いた。
「……じゃあ少しだけ、ここに座ってくれる? それもダメ? 」
「少しだけだぞ」
俺はいつになく不機嫌に、ベッドの端へ腰掛け、うつむいた。
無言の時間が流れた。ごそごそっと何やら音が聞こえた。俺は怒りを堪えるのに拳を握った。
恐る恐る振り返った。自分の感情を殺そうと俺は必死だった。
琴夜は裸になり、ベッドに座って俺を見つめていた。
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