メンテナンス

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メンテナンス

「おや? 見ない顔だね」 「よろしくお願い致します。今日この場に居れる自分を誇りに思っております。何卒、ご指導の程……」 「そう畏まる事はない。優秀な人材を育むのは非常に重要だ。若さはいい。視野が広がる」 「ありがとうございます」 「今日は分かりやすく説明する事にしよう。君の理解も早まる。お互い有意義な時間を過ごそうじゃないか」 「お心遣い感謝します」 「もっと肩の力を抜きたまえ。柔軟な思考が大事だ。……さて、始めよう。ありのままの君の意見を聞かせてくれたまえ」 「この結果を君はどう思うかね?」 「記憶の混濁が多少見られます」 「ああ、だが、それも規定範囲内の中でのプラスやマイナスがあるだけだ。問題はない」 「そうですか……少々気になりまして……」 「君は嫌な事を思い出す時、思い出したくない気持ちも同時に感じる事はあるかね?」 「それは、あります」 「そういう事だ。誰だって何かを忘れてしまったりもする。別の事を考えていて、今すべき事をふと忘れてしまったりね。経験はあるかい?」 「確かに、ありますね」 「人になるべく近づける為には仕方のない事なんだよ」 「母性への飢えも見られます」 「男性型だからね。君も母親の味が恋しくなったり、彼女に無性に会いたくなったりはしないかい?」 「とすると、これも正常な乱れという訳ですね」 「飲み込みが早いのはいい事だ。全くその通りだ」 「規定範囲外のプラスやマイナスの兆候があった場合の対処法ですが……」 「それも一言では難しいな。そもそも我々が作った規定だ。誰しもが当てはまる訳ではないだろう。これからの人格形成において、少なからず起きるだろうが、より、人に近づけるには、我々もその都度……」 「規定自体を見直していくと」 「それも一理ある。だが、仮に君が平均台の上を歩いていると過程しよう。おっと、君は足を踏み外しそうになった。その後君はどうなるか自分で想像がつくかい?」 「そのまま踏み外して落ちるか……バランスを取りまた歩きだせるか……又はそれ以外のアクシデントが起こるか。ある程度の想像はつきますが、断定は出来ません」 「平均台でもいい。綱渡りでもいい。バランスを崩すのもまた必要なんだよ」 「そうすることで新たな選択肢、視野等を増やす事へ繋がる、と」 「ご名答。なんとも気が遠くなる話だが、成功した暁には、我々は進化の更なる上に辿り着くだろう。それを進化と言うか支配というかは愚問だが」 「人類の頂点ですか……?」 「どうだろうかね。そもそも人類自体が、彼らに及ばなくなるのかもしれんがね」 「……」 「しかし、我々には必要なんだよ。彼らの事がね」 「……さあ、次の段階に進むとしよう」
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