夢なら覚めないで

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夢なら覚めないで

「……出来た!」 嬉しそうな高い声を上げ、琴夜(ことよ)は近寄ってきた。 「見て!」 恥ずかしそうに、それでいて誇らしげな姿で俺にそれを見せた。 あれから俺は言葉を交わす事を心がけ続けてきた。 そうすることで不思議とお互い知らなかった事を知るきっかけにもなった。時には喧嘩になり泣かせる事もあったが。 戸惑うばかりだが、今では少し楽しいとすら思える。口下手なのは相変わらず治らないが…… 「マフラーか」 「そう、やっと出来たわ」 「もし明日氷河期が来たら、これがあなたを暖めてくれる」 そっと首に回されたそれは、暖かかった。 「確かに暖かいな」 「赤と白よ。貴女にぴったり」 「染まり過ぎた赤と無垢な白。まるで貴女のようね」 よほど嬉しいのか、琴夜は少し饒舌だった。 マフラーを巻いたまま、俺は続けた。 「次はどうする?」 「うーん、そうね……」 「何かあったら、持ってこようか? 」 何かなんて俺に分かるのだろうか。ふと不安がよぎった。 「当ててみて? 」 不安は見事に的中した。時々心を読まれている気がする。気のせいだと祈るしかない。 「……わからない、すまない」 すぐに白旗をあげた。 「何だっていいの。貴女がわたしに、ふさわしいと思ってくれた物なら」 琴夜はうさぎの様にいつも俺の何歩も何歩も先にいる。俺は亀だ。いつまで追いかけようが決して追い付けやしない。 「これだって、立派に形を成したわ。初めはただの糸だったもの」 「……そうだな」 首元のマフラーをぎゅっと握った。 そして、琴夜の細く白い首へ、そっと回して掛けた。 「俺の宝物」 少女の様な笑顔を浮かべ、琴夜は俺に抱きついた。 「宝物だ」 俺も琴夜を抱き締めた。 花を贈るのは流石に柄じゃないだろうか? 両手に抱えきれない程の花束を琴夜へ贈りたい。きっと驚くだろう。薔薇なんてのもいい。今度は赤い薔薇を俺が渡すんだ。 琴夜の喜ぶ顔が見たい。 ペットもいいな。出来るなら小さい子犬か子猫か、愛らしい姿をした物がいい。熱心に世話をする姿が目に浮かぶ。 俺は少し焼きもちをやきながら、眺めるんだ。これも悪くない。 だが、そんなもの、あるのだろうか? 薔薇や花も子犬や子猫も。 外には一体何が残っている?琴夜へ贈るのにふさわしい何かがまだ存在するだろうか。 俺は考えるのを一度止め、琴夜をまた抱き締めた。彼女の笑顔を壊したくなかった。
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