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「そうだな。倉内昴です。これからよろしく」
「三上遥香です、よろしくね」
そう言いあいながら握手すると、ひさしぶりに視線を合わせた。
「ここから再スタートだな」
「「うん」」
頷き合った二人には、もうわだかまりはなかった。
「遥香は就職したばかりだし、すぐ結婚しようとは思っていない。まずは普通の恋人同士みたいに、これから一つづつ楽しい思い出を積み上げていこう」
「例えばどんな?」
「映画館とか、遊園地とか、遥香の行きたいところ、どこにでも。それから、月の名所にも連れて行ってやりたい」
「お月見スポットのこと? どうして?」
「どうしてって……。遥香はもう忘れたかもしれないが、最初に会った日に言っただろ? 『いつか本当に美しい月を見せてやりたい』って」
「覚えててくれたんだ」
出会った日、図書館に案内して貰った時のことを忘れずにいてくれたことに、温かな気持ちになった。
「当たり前だろ。この縁を大切にしていきたいんだ」
「私たち、いい夫婦になれるかな?」
「最高の夫婦になれるに決まってる。形式やきっかけなんて些細な問題なんだ。俺は遥香に惚れてる、それが一番大切な事だろ?」
「私も昴さんが好きだよ、ずっと伝えたかったけど口にできなかったの」
心に秘めていたその言葉をやっと口にすることができた。
「俺は遥香を愛してる。だから俺を信じて共に歩いてほしい」
「私も昴さんを愛してる」
昴を思ってきたこの気持ちは恋などではない、愛なのだ。
差し出された昴の手を握り返すと、手を繋ぎ歩き出した。
愛と言う名の罪から生まれた、新しい愛。
強い絆ですべてを乗り越え、今度こそ美しい花を咲かせることができるに違いない。二人はそう信じることができた。
【完】
ご愛読ありがとうございました。
『その罪の名は、愛』
2022.08.23~2022.09.01
広瀬玉青
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