45人が本棚に入れています
本棚に追加
蛍光灯がチカチカと瞬いている。
倉内麗奈は宝石店の奥の薄暗い廊下を歩きながら、不安になって巻島奈緒の顔をうがかがった。
「VIPルームにはどんなジュエリーがあるかしら? 店頭の品もいい線いってたから楽しみね」
期待に頬を紅潮させている奈緒を見て、麗奈は胸の中に湧き上がりかけていた黒い霧を奥底へと追いやった。
(大丈夫、安心できる店に決まっている)
そう自分に言い聞かせながら、先を行く店主のバンクと通訳ガイドのビューの背中を重い足取りで追った。
タイ、バンコクのシーロム通り裏手にあるこの宝石店に二人を連れてきたのはビューだ。
そのビューを麗奈に紹介したのは、麗奈の夫、高裕の従妹である鎌原典子なのだ。問題になるような要素などある訳がない。
廊下が暗くて不安になったなどと言ったら「これだからお嬢さん育ちは困ったものね」と年下の奈緒に呆れられてしまうだろう。
最初のコメントを投稿しよう!