45人が本棚に入れています
本棚に追加
「VIP用の特別室はこちらになります」
そう言いながら廊下の突き当りにあるドアを開けるとバンクとビューが先に室内へと入った。
麗奈は扉のところで、奥の方に応接セットがあるだけの殺風景な室内に戸惑った。特別室も店内と同様にガラスケースが並んでいるとばかり思っていたからだ。
「少し待っててくださいね、金庫からおすすめの品を出してきますから」
バンクがそう言って背を向けると
「この辺りは治安が良くないですから、高価なジュエリーは金庫に保管してあるのです」
ビューがフォローを入れた。
(なるほど、そういうことか)
二人の言葉に納得して一歩踏み込んだはず……だった。
「キャッ」
階段を踏み外した時のように足が空振りする嫌な感触に、全身の毛穴からドッと冷や汗が出る。
!? 何が起こったか分からぬまま、バランスを崩し体が闇の中へと落ちていく感覚にパニックした刹那。
――ドサッ
予想していたような痛みはなかった。
何か弾力があるものに体が沈み込むような感触に、床面に着いたのだと理解した。
「奈緒さん、大丈夫?」
奈緒も一緒に落ちたらしく、マットレスの上で腰をさすっているのが見えた。
「大丈夫。麗奈さんは?」
「ええ、驚いたけど、無事よ。……床が抜けたのかしら?」
建物が古くて床が抜けたのだろうか? そう思いながら、光の差すほうを見上げた。
最初のコメントを投稿しよう!