遠い夏の匂い

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 週末、白地に青の朝顔を咲かせた浴衣を身に纏うと、駅の鏡で全身を確認した。今日は年に一度の地元の夏祭り。全国的にも有名な花火大会で、こんな田舎でも今日だけは町が人で賑わっていた。私は今日、このお祭りに彼を誘っていた。  待ち合わせ場所に選んだ駅前の噴水に向かうと、紺色の浴衣姿のリョウを見つける。いつだってそう、彼が待ち合わせに遅刻したことはない。私のことをもう好きじゃないと言っても、約束を守る律儀なところは変わらないのだ。 「リョウ。ごめんね、お待たせ」 「まだ時間前だよ。じゃあ行こうか」  言いながら、彼が先に歩き出す。初めて着た浴衣だというのに、誉め言葉のひとつもくれずに。  一歩前を歩き出した彼の手を掴むと、いつもしているように指を絡めた。 「手、繋いでもいいでしょ?」 「……うん」  ぎこちなく、リョウが私の手を引いて歩き出す。傍から見れば、ただの恋人同士なのに、私の心は置いてけぼりだ。  でも、こうして恋人でいられる時間もあと僅か。だからこの残りの時間を、思いっきり楽しまなければいけない。  気を抜けばこぼれてしまいそうな涙をぐっとこらえて、彼の手を握りしめる。もちろん、いつものように握り返してくれることはなかった。
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