4年越しの初恋

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「……キスくらいで固まっちゃって、先生未だに彼女なしだな?」  あの日より少し大人びた真田が、唇をそっと離すとからかうように笑ってベランダに出ていく。 「彼女か……もう数年いないけど、別に困ってないな。それに固まってたのは……昔のことを思い出してたんだ」  俺も彼女を追いかけた。  グラウンドでは運動部の生徒が、炎天下の下部活動に励んでいる。管楽器の音も聞こえていた。 「ふーん……何となくわかる気がするよ。あたしも大人になったってことかなぁ」  真田はポケットから煙草の箱とライターを取り出した。 「……真田」 「ん、なーに?」 「校内は禁煙だ」 「ちぇー」  咥えかけていた煙草を箱に戻したのを確認して、俺は彼女に問う。 「……なんで俺なんだ?」 「なんでって……先生が初めてだったから。あたしのことを肯定してくれた大人。すごくね、嬉しかったの……それだけで大好きになれるほど。4年経っても、忘れたりなんてできないくらいね」 「そうか……それにどうしてここが? 俺はあのあと2回転勤してて、ここは真田の母校でもないんだけど」 「そんなの新聞に出てるから簡単にわかるよ……何年何組の担任だーとかもお客さんに聞いてた。こーゆー系の人たち情報網、ナメない方がいいよ?」 「そういうものなのか……そういえばどうやってここに入ってきた?」 「あー……ここの校長、うちの店の太客」 「なるほど……」 「そういうことなので、残念ながら約束は果たされてしまいました。先生、もう諦めて、あたしと結婚して」 「全く……とんでもない問題児だよ……綺麗な思い出にしておけば良かったのに」 「お褒めに預かり光栄です」  俺は馬鹿みたいに笑う彼女を抱き寄せた。  風に煽られる長い髪からは、煙草と甘い香水の匂い。  俺は彼女に負けた。約束は約束だ。  今は全て忘れて、大人になった問題児の体温を全身で受け止める。  ……ポケットの中に隠した、左手の薬指を縛るための今は噛みちぎられた鎖に、彼女が気づくことのないように。 [完]
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