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俺と真田が出会ったのは、5年前の春。俺は新卒で真田は高校2年だった。
クラス、いや学校でただ1人金髪。制服も気崩している上に教師にもタメ口。正直印象は最悪だった。
普通の家庭で普通に育ち、真面目に勉強しそこそこの学校へ行き、まともな職をと教員になった俺にとって、真田のような人間は理解不能だったのだ。
なるべくこいつとは接触しないようにしよう。そんなことを思っていた矢先、俺と真田の接点は生まれてしまう。
「屋上の鍵が……無くなった!?」
教員になって最初の大きな事件だった。
時刻は20時。日直の先生が校内の見回りを終え、職員室へ戻って来た時。
「あれ、屋上の鍵持ってる方いますー? また誰かが違うとこに引っ掛けちゃったかな……」
職員室の壁に掛かっている鍵置き場は掲示板に無数のフックが付いているだけの簡素なものだが、それゆえに鍵の位置が分かりにくく、生徒が間違った場所に返却してしまうことも少なくない。
「でも屋上の鍵なんてほとんど使わないですよね」
「……やっぱり無いぞ。屋上の鍵だけ」
「え、だとしたら持ち出されたってこと!?」
それから職員室はちょっとした騒ぎになる。鍵の紛失なんて始末書ものだ。
「屋上に何者かが侵入しているかもしれない……一刻を争う事態だ。嶋永先生、すみませんがちょっと見てきてくれませんか? 我々もあとから追いますが、嶋永先生が1番若いから足も速いでしょう」
体育担当の教員は既に帰宅していた。
大学ではフットサルのサークルで毎日のように汗を流した。
確かに今残っている教員の中で1番足が早いのは俺だろう。
俺は教室棟へ走り、全力で階段を駆け上がる。
今思えば最悪だ。真面目に翌日の授業準備なんてしないで帰っていれば良かった。俺は国語教師だぞ? 体育担当の教員が残っていれば……。
けれどあの時の俺は、屋上の扉の向こうに侵入者がいることだけを想像し、ドラマのような展開に浮かれていた。本当に馬鹿だ。
階段を駆け上がった勢いのままに重い扉を開ける。
肩で息を切りながら正面を見ると、目を丸くしてこちらを振り返る誰かと目が合った。
風に煽られて乱れる長い金髪、化粧の施された生意気そうな顔、大きく気崩したこの学校の制服……そんな人間、俺は1人しか知らない。
扉の向こうにいたのは、学校1の不良女子生徒……真田美羽だった。
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