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「……かっこいいじゃん」
気づくと俺の口は、そんなことを言っていた。
今思えばこれが、1番の間違いだった。
「へっ?」
ぽかんとしている真田に、俺は続ける。
「それって真田さんの中の『かっこいい』を貫いてるってことでしょ? 誰になんと言われようと負けることなく……。それって、めちゃくちゃかっこいいじゃん!」
ずっと俺の中にあった何かが殻を破り、光り輝いていくような……大人になってからこんな感覚は初めてだった。
「俺はさ、真田さんとは逆で、普通の家で普通に育って、校則も破ったことなくてさ。何となくでお堅いこの仕事を選んで、真面目にまともにって生きてきた……。だからそうやって自分で自分の『かっこいい』を見つけて、突っ走れる真田さんはすごいと思う!」
真田の瞳に、俺の言葉が光を注いでいるのが分かった。
その光は徐々にゆらゆらと震え始めたかと思うと、決壊し、溢れ出す。
夜空にちりばめられた無数の星をそのまま映したような彼女の瞳は、泣いていた。
「……っう、せ……せんせぇ……」
馬鹿の一つ覚えのように先生、先生と呼び泣きじゃくる彼女の姿は、学校1の問題児とは到底思えない。まるで母親を恋しがる子供のようだった。
ーートン、トン、トン……
誰かが今更、のろのろと階段を登ってくる音が聞こえる。
「真田」
俺は彼女を初めて呼び捨てにした。
「ふぇ」
彼女はまだ泣き止まない様子で、中途半端な返事をする。
「誰か来る。ここは俺が上手くやるから、その辺の影にでも隠れてな」
彼女は頷くと近くの段差の影にちょこんとしゃがんで隠れる。
「嶋永先生、帰りが遅いので心配しましたよ。何かありましたか?」
「教頭先生、すみません。屋上の鍵が階段に落ちていたので、まだ誰かいるんじゃないかと思って探してたんですよ」
俺はわざとらしく周りを見回しながら続けた。
「まぁ誰もいなかったんですがね。恐らくですが、生徒がいたずらして屋上で遊び、怒られるのを恐れて鍵を職員室に返さず帰ったといったところでしょうか……」
「なるほど……最近は生徒のいたずらなんかが多くて困りますねぇ」
「元気なのはいいんですがね……。ここは私が閉めてすぐ戻りますので、どうぞ教頭先生は先にお帰りください」
「分かりました。では頼みますよ」
教頭の足音が消えたのを確認してから、俺は段差の影に声をかける。
「今回のは誕生日プレゼントだ。調子に乗るなよ」
出てきた問題児はニカッと笑った。
「先生、神」
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