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「ほら、2階のベランダに出ている…あれが家内です」
島村がその女性に向かって手を振ると、その女性も応えて手を振り返した。
「来月には男の子が産まれる予定で。公園デビューしたら、妻子ともよろしくお願いします」
旦那が私に何か言っている気がするけど、頭がクラクラしてよく聞こえなかった。
うわぁ…恥ずかしい。
何ひとりで勝手に盛り上がっていたんだろう。
人違いじゃないの!
私はひとりそっぽを向いて赤面した。
「あのドングリは、芽が出なかったんですよ」
旦那の目の前で島村が私に向かって言った。
「え?」私は驚いて島村を見た。
「今生えているドングリの木は、その次の年に植えたドングリの木です。なのであの時の約束は反故ですね、詩織さん」
島村はにっこり笑う。あぁ、ゆうくんの笑顔だ。
―――人違いじゃ無かった!
「だけど、お互いの子供は沢山ドングリが拾えますよ。では神崎さん、明後日からよろしくお願いします!」
そう言って島村は奥さんに手を振りながら、颯爽と去っていった。
私は「どういうつもりよ!人をからかって!」と島村に向かって言ってやりたかった。…言えなかったけど。
「…どういう事だ?」旦那は眉間にシワを寄せて私に尋ねる。
旦那に初恋の人は島村だと知られるのは超恥ずかしかったが、やましい事は全く無いし今後の予定にも無いので、その時の事を全部話した。
旦那は「そうか…」と拍子向けの反応だった。
少しはヤキモチを妬いてほしいと思ったが、小学1年生の頃の事だし、旦那はこれから毎日顔を合わせる相手だ。わだかまりは無い方が良い。
(ま、いっか)
私達3人は綺咲を真ん中に手を繋いで、新しい我が家である社宅の1室に入っていった。
そんな島村との再会の事を気にしなくなった頃、旦那が腹筋や腕立て伏せなどのトレーニングにコッソリ毎日励んでいた事を私は知ってしまった。
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