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第232話 記録更新です
「あいつはどこだ! てめえと昨日一緒にいただろ! 居場所を教えやがれ!」
「ダンジョンに行ってるって何度も言ってるじゃねえか! それに俺の集めた薬草をバラ撒きやがって! 買い取りが下がったらどうしてくれるんだ!」
アルの籠をひっくり返したのは昨日のSランクのパーティーのようです。
「こんなのもいくらでも拾ってくれば良いじゃねえか! たかが草だろ! 踏まれてようがなんだろうが関係ねえんだよ! おらっ!」
そう言って拾い集めてきていた薬草を踏みにじり、あんなにされたら使い物になりません······。
「お兄さん。薬草をなぜ踏んでるのですか? あなたが使うポーションはこんな踏まれた薬草でできていると思っているのですか?」
「お前! 昨日は良くもやってくれたな! それも偽物のギルドカードまで持っているって話じゃねえか! 偽造カードは重罪だぜ! おらっ!」
また、行きなり殴りかかってきましたので、今度はぐるぐるしてあげますよ!
ブンっとしゃがんだ頭の上を通りすぎる腕を感じながら、そのまま突っ込んで来ましたので横に避けておきます。
「ぐはっ!」
っと、テラ達に突っ込んでしまいますので腰のベルトを掴み、止めてあげました。
「は、離せ! ちょこまかと避けやがって! こうなったら――死ね!」
なんと冒険者ギルドの中で剣を抜き、そのままの勢いで切りかかって来ました。でも今度はアルが後ろにいますので、避けるわけにはいきません。
「ギルド内で剣を抜くのは犯罪ですよ! しっ!」
ブンっと振り下ろしてきた剣の先を両手で挟み、握り手をおもいっきり蹴り上げました。
ボキボキと、蹴った足にお兄さんの指が折れた感覚が伝わってきましたが僕は剣を挟んだまま奪い取っておきました。
「貴様! いくらなんでもやりすぎだ! ギルド内で剣を抜くだけでなく、切りかかるだと! お前はギルド除名になりたいのか!」
「ウガァァー! お、俺の指が! 俺の指が折れてるぞー! クソガキが! 喰らえ!」
今度は蹴りを放ってきましたが、魔力を抜ききってしまったので、蹴りは宙を切り、誰にも当たる事なく、くるんっと足を振り回した勢いのまま気絶してドスンと倒れてしまいました。
僕はすぐに奴隷の魔道具を嵌めておく事にました。
「テラ、アミー。大丈夫? アルも怪我してない?」
「ええ。私は大丈夫よ。でもアルの薬草が無茶苦茶になっちゃったわね」
「うむ。ちと怖かったがライが守ってくれたのでな。大丈夫じゃ」
「くそっ! 半分はぐちゃぐちゃだぜ。おい! てめえらのリーダーが俺の薬草を無茶苦茶にしたんだ! どうしてくれるんだよ!」
アルの言う通り薬草は床に散らばり踏みにじられて使い物にならない物が大半です。
「や、やっぱりこのガキ――しょ、少年は本物のSランクじゃないか! それも武器を持ったリーダーを簡単に倒せるほどの強さ······」
呆然と見ている仲間の人達に今日も買い取りの受け付けにいたギルドマスターが近づいてきて、倒したお兄さんの首に手を伸ばしました。
「おう。お前達ギルドカードを出しな。コイツのはこれか。ふん!」
首にかけてあった紐を引きちぎりながらSランクのギルドカードを回収した買い取りのギルドマスター。
「コイツは犯罪奴隷だな。お前達も同罪になりたいなら逃げても良いが、犯罪奴隷となり、冒険者ギルドを永久除名になるか、大人しくギルドカードを出して、そうだな二ランクが妥当か。お前達はAランクだったな。ではCランクへ降格か選べ」
「そ、そんな! 暴れたのはリーダーだろ! 確かに止めなかったが、それはあまりにも酷くないか!?」
「そんな事はないと思うが? お前達がこの教都に来てから俺は何度も注意をして来たぞ。確かにお前達はダンジョンの攻略記録を持ってはいるが、素行が悪すぎる。買い取りもだが、受け付けも毎回注意をしているにもかかわらず順番は守らないだろ?」
「いや、それはSランクパーティーの特権で――」
「そんなものはない! 噂も聞いているぞ、お前達が泊まっている宿代も払っていないそうだな」
「そ、そうだが、Sランクのパーティーが泊まる宿って宣伝しているだろ? それに宿側もも請求してこないじゃないか!」
「請求はまだしてないだけだと聞いたぞ――」
あっ、それアルも言ってましたね。おっとそっちの方達は任せておいて、僕はアルにリンゴをあげることにしましょうかね。
「アル。薬草は残念だったね。今日リンゴを沢山採取したから少しあげますよ。中々の美味しさですよ。はい」
僕は籠に十個ほどリンゴを入れて渡してあげました。
「おっ、美味そうじゃないか。良いのか? 街で買うと銅貨二枚くらいするんだぞ?」
「はい。八十三階層で沢山採取出来ますから大丈夫ですよ」
「へ~、結構進んだな、流石Sランクってやつだな。······ん? 八十三階層? ――は、八十三階層だと! ライ! 嘘じゃねえのか!? コイツらの記録よりさらに深く潜ったって事か!」
「はい。頑張りましたよ。ほら、ギルドカードにも書いてあるでしょ」
僕はダンジョンカードを出してアルに見せたのですが、話を聞いていたギルドマスターが横から僕の手元を覗き込み、目を見開きながら呟くように声をあげました。
「は、はは······本当に八十三階層じゃないか」
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