第235話 これは貴族に捕まるというテンプ······

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第235話 これは貴族に捕まるというテンプ······

「大人しくしろ!」  いえ、動いてもいませんよ。見ると白いマントをバサッと(ひるがえ)し、腰にかけてあったロープを手に取り、僕に向かって来る騎士さん二人。 (はぁ、私達も捕まるみたいね、ちゃんと護りなさいよ) (くくっ、ほんにライは普通考えられない事を考えるのう。まあ頼んだぞ) (任せて下さい。傷一つ付けさせませんから)  あ、ギルドマスターさんまでロープで拘束されちゃいましたね。 (ムルムルは服の中に隠れておいて下さいね。あっ、アミーの魔法の杖は収納しておきましょう。取られると嫌ですからね) (おお! そうじゃ! ライよ、よろしく頼むのじゃ)  僕達四人が抵抗すること無く拘束されたのを見て、満足そうなギキムさんです。 「よし、二人はこの四人を屋敷の牢屋にまとめて放り込んでおけ、私はこの後衛兵の詰め所に向かい、奴を引き取ってくる。まったく下らない事で捕まりおって、まあ奴隷になった分扱いやすくなったのは手間が省けたと喜ぶべきか」  ふ~ん。疾風怒濤さん達をやっぱり仲間にするつもりなのですね。  僕達は大人しく二人の騎士さんについて行き、冒険者ギルドの隣にあった石造りの壁で囲われた中に入ったのですが、あまり広くはないですね? 貴族なのに冒険者ギルドの隣ですし。  あっ、街中なのであまり大きくないのですね、それに貴族街でもありませんし、あまり偉い方ではないのかもしれません。  お屋敷に入ると、ホールの正面にあった階段の裏から地下への入口があるようで、定番ですねと感心してしまいました。 (ライ。顔がにやけてるわよ、ちょっとは引き締めてないと怪しまれちゃうんじゃない) (え? そ、それは困りますね。分かりました。そうだ、少し気になったのですがこの二人は悪者ですか? 奴隷の腕輪を付けているよね) (そうね。見てみるわ。んん(神眼)~、普通に犯罪奴隷よ。強奪と殺人の称号が付いているわ) (ありがとうテラ。あっ、鍵の魔道具を出しましたね)  階段下の扉を開け、光の魔道具を使い階段を下りていきます。たぶん三階建て分ほど下って両側に鉄の扉がいくつもある地下室に到着して、一番奥の扉前で止まり、鍵を開けました。 「ギキム枢機卿様がお帰りになるまで大人しくしていろ。入れ」  僕達四人は言われた通り牢の中に入り、ガチャンと扉がしまったと同時に鍵がかかったようです。 「階段入口もここの扉も魔法の鍵ですね~。テラ、アミー怪我は無い?」 「ええ、大丈夫よ。それよりこのロープ外しちゃって、もう良いでしょ?」 「そうじゃな。後ろ手に縛られておると何かと不便じゃしな。ライよ頼む」 「おいおい、大丈夫なのか? こんな無茶な事で拘束されて、こんなところに入れられたんだ、すぐに冒険者ギルドが抗議を入れて出られる、大人しく待っていた方が良いぞ」 「ん~、あのですね、テラ、お話しても大丈夫?」 「そうね、ちょっと待って。んん(神眼)~、良いわよ。ほら早くほどいてちょうだい。鼻の頭がちょっと痒いのよ」 「うん。収納! お待たせ」  テラはロープが無くなってすぐに本当に痒かったようで、鼻の頭をポリポリかいて、アミーはぐぅーっと伸びをしています。ムルムルも服の中から出てきていつも通り肩に戻りました。 「拘束が無くなったぞ! お、おい。本当に大丈夫なのか? 罪が重なれば――」 「大丈夫です。一応僕も他国ですけど貴族ですし、あのギキムさんは悪者ですから僕達の方が捕まえる方なのですよ。実はですね――」  僕は心配そうな顔をするギルドマスターさんにこれまでの事を教えて上げました。 「そ、それじゃあ教国は回復魔法を独占していたから世に回復魔法を使う者が教会にしかいなかったと? その素養がある者を攫い、仲間にならなければ奴隷にしてたって事か? ······なんて事だ。高い治療費が払えず死んでいった者は数えきれないんだぞ······」  ギルドマスターさんに話し終わったのですが、明日まで待ってもらわないといけません······ん? 「あの、ギルドマスターさん。明日教会の偉い人達が沢山集まるのですがどこか分かりますか?」 「え? あ、ああ。それは大聖堂だ。······ん? そう言えば今年は集まりが悪いな。例年だと一週間ほど前から街は教会の者で溢れ帰っているはずなのだが。今回は特に次期教皇候補を選出するはずだから、もっと集まっても良いはず。だが街に到着した枢機卿達は思いの外少ない······なぜだ?」 「大聖堂ですね。あの大きなお城みたいなところですか?」 「そうだ。今夜から全員集まって、大々的に選出の祭りが(もよお)される予定で、警備依頼が入っていたんだがな」 「なるほど。では今夜にやっちゃいましょう。それと、集まっていないのは僕がここに来る途中の方達に奴隷の魔道具を嵌めて、街とか村の衛兵さんに捕まえてもらうようにしたからですよ」 「なんだと! それじゃあ!」 「はい。僕は教国に入ってからぐるぐる教国を回りながら外側から順にそうやって捕まえてきましたから、たまたま上手くすり抜けられた方だけがこの教都に到着しただけですね」 「ライ。どうするの? 夜までここで休憩?」 「休憩するなら綺麗にせぬか? ホコリだらけじゃし、鼻がムズムズするのじゃ」 『きれいにするよ、ぐるぐる~ほいっと』  ムルムルは、いつも通りみにょ~んと伸びて広がると、部屋中の壁や天井、もちろん床も一瞬だけ包み込んだと思ったら、綺麗に拭き掃除したような嫌いな部屋になっちゃいました。 「ん? どういう事だ? ホコリ臭かったはずだが匂いが無くなったぞ?」  あっ、僕達は見えてますが、あまりに素早かったですし、扉に付いてる小窓から差し込む魔道具の光しか光源もありませんしギルドマスターさんにはムルムルの動きが見えてなかったのですね。 「生活魔法、光さんお願いします」  四つの光を出して部屋の四隅に浮かべます。すると石造りの綺麗になった部屋を照らしました。
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