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第236話 捕まりましたが出ちゃいましょう
明るくなった地下牢はツルツルの壁、天井も床もピカピカで本当に何もない部屋ですね。
「ろ、牢だよな? こんな綺麗な地下室を牢にするとは教会とは無駄に金を使っているのか? 金が欲しくて回復魔法や手当てができる者を集めていたのだろ?」
「あのですね、この部屋はムルムルに綺麗にしてもらったので、元々はホコリだらけの汚れだらけでしたよ」
僕に見えてた部屋には、木屑や服の切れ端とか、あと良く分からない物が沢山散乱していたのですが、ムルムルが綺麗に全部食べちゃいましたからね。
「なんと! そのスライムが! ······ふ、普通のスライムにしか見えないが、凄いのだな。ま、まあそれはおいておこう。それよりどうするのだ、このまま牢ではなんともならないぞ、だが待つしかないか······」
ギルドマスターさんは一人納得したのか、うろうろと狭い牢の中を歩き回っています。えっと、大丈夫なのですけどね。
(テラ、他の牢にいる人達は人攫いされて捕まってる人達なの?)
(そうね、さっき見たけど二人よ、お爺さんと女の子ね、お腹は空いてるみたいだけど怪我も病気もないわ)
(やはりギキムとやらもこれまでの奴らと同じようじゃな)
(ん~、誰か地下に下りてきますね。人数は······五人ですね)
耳をすましながら、ギルドマスターさんには『誰か来たので静かにして下さいね』と言うと、うろうろも止めて、外の音や声に集中してくれました。
『ふむ。捕らえた時も思ったが静かなものではないか、お前も教皇選挙が終わるまで、ここでしばらくは待機していてもらおう。お前は教皇になった暁には専属護衛として使ってやる』
『ああ。報酬はギルド経由で頼むぜ。そうだ、あの小僧だけは俺にやらせてくれ、あそこまでコケにされたんだ、奴の手もボキボキにしてやる。それに早くこの奴隷の腕輪を外せるように手配を頼むぞ』
『奴隷商会には依頼してある。明日から数日の我慢だ。教皇選挙が終わらねば何も始まらん。なぜか今回の集まりが少ない、このままなら有力候補が軒並みおらぬからな、私の当選確率が限りなく上がっておる。だが、あの小僧もSランクなのだ、奴隷にして使うつもりだから壊してしまわぬようにな』
『チッ! 指の骨は絶対折るぞ、やり返さないと腹の虫がおさまらないからな。だがしばらくは回復させるんじゃねえぞ』
『仕方ないが骨折まで回復させようとするならば、金貨をもらうぞ? よしこの部屋だ入るぞ、中にはしばらく生活できる――』
僕には奴隷の魔道具は効きませんよ、すぐにぐるぐるで壊しちゃいますから。でもやっぱりあのお兄さんを引き取ってきたみたいですね。
そして降りてきてすぐの扉でしょうか、扉の開く音がして、降りてきた五人が入ってしまったようで、扉が閉まる音がした後、声がほとんど聞こえなくなってしまいました。
(あっ、このままその部屋の魔道具も持っている物もいただいちゃいますか、えっと、魔道具を~、収納!)
『な! どういう事だ! 真っ暗だぞ! 灯りを!』
『どうなってんだよギキム枢機卿! 何も見えないぞ!』
あっ、灯りも魔道具だったのですか。あはは、まあ生活魔法の光を使って下さいね。
「さて、わざと捕まえられましたから、僕達も出ましょうか」
「思ったより簡単に済ませたわね、ライならアイツらがこの部屋に来てからやっつけると思ってたのに」
「そう思っていたのですが、今夜から集まるのでしょ? だったら夕ごはん食べてから行けば皆さん集合してますよね?」
僕は扉に近づき魔法の鍵を開けると扉を開けて、捕まってるお爺さんと女の子をまずは助けちゃおうと外に出ました。
「何!? わざと? いやそれよりなぜだ!? 地下に降りてきた所の部屋に入ったと思ったのだがここの魔法の鍵が開くんだよ!?」
ギルドマスターさんは音でそう感じたようですね。
「鍵は僕が開けましたし、ギキム枢機卿さん達は閉じ込めましたからたぶん大丈夫ですよ。鍵ももらっちゃいましたから出れなくなって、騒いでいるのが聞こえるでしょ?」
扉を開けたので、さっきより大きく聞こえるようになっています。ギルドマスターも、そっと牢から顔を出して枢機卿達がおらず、入口近くの部屋から聞こえる声と、扉を叩く音を聞いて納得してくれたようです。
「そ、そうだな。だがどうやって······いや、詮索は駄目だな。よし、脱出には俺も協力しよう」
「はい。二人の人が捕まって、一緒に牢へ入れられてるみたいですから助けますよ。こっちです」
「うむ。分かった行こう」
出て目の前にある扉の鍵を開けて、声をかけます。
「出てきても大丈夫ですよ、助けに来ました」
扉を完全に開けてしまうと、ギルドマスターさんも二人の姿が見えたようで『ん?』と言った後僕の前に出て声をかけました。
「ん? 見覚えが······っ! 先々代のギルマスじゃないか!? そっちの子は分からないが外に出れるぞ!」
『おい! 外からギルマスの声が聞こえるぞ! ギキム枢機卿! やつら逃げ出してるじゃないかよ!』
『どういう事だ! あの二人達鍵をかけ忘れたのか! おい! 大人しく部屋に戻っておくのだ! いや、上から人を呼んでこい! 扉の鍵を持ってこさせろ!』
「ってこんな風にギキム枢機卿さんは捕まえてありますから安心して下さい」
ギルドマスターさんを見たのと、聞こえてきた声で納得してくれたようで、小さな女の子を背後に隠しながらですが、こちらに近づいてきてくれました。
「ぬっ。お前か!? 助けにとギルドマスター自ら来たのか、その少年も捕まっていたにしては小綺麗だが良くやったギルドマスターよ。この子はスラムに住んでいた子だ。枢機卿達は捕まえたようだが、私兵がいるぞ、大丈夫か?」
「はい。この少年はSランク冒険者ですから問題ないですよ。私もAランクまではいきましたので。腕は鈍っていると思いますがね」
二人は部屋の外に出て、僕達しかいないのを見て安心してくれたようで、ほっと息を吐きました。ですが少し、弱っているようで、ふらふらとしていますから、先に脱出させてあげましょうね。
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