2人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
垂れ流しにしているTVからアナウンサーの声がする。
「最近は猛暑が続いて、毎日通勤も一苦労ですね。熱中症に気をつけなければなりません」
「この世界はこのままではいけないのではないでしょうか」
分かりやすい問題提起だ、と思った。SDGs、なんて言葉も流行っている。
世界という言葉は誰が決めたんだろう。世界といえば、誰しもが自分事だと思い込む。
どこからどこまでが世界か。その言葉が表すのは、なにか。そんなことを考える思考の余地すら、うばっていく。
ひとくくりにされた「世界」で息が苦しいぼくみたいな人間は、きっと「世界」の一部ですらないのだろう。
少しだけ開いた窓から差し込む蝉の声。みーんみん、と微かに鳴いている。
まだしめていないレースのカーテンを揺らして夕方の風が入ってくる。ぼくの頬を撫でて通り過ぎる。
まるで誰かに触れられたみたいな、なまぬるい温度。
ああ、だから、夏はすきじゃない。
まるできみはひとりぼっちだと言い聞かされている気分になるから。
数日前に大きなカッターを100円ショップで買った。黄色くて、簡単に刃が出せるやつ。家に帰って開封した時に、チキチキチキと刃を繰り出して、鈍く光るその色に少しだけ怖くなって元通りに仕舞った。
そのカッターを今、ポケットに入れる。白いTシャツに黒いジャージ。足元は黒いサンダル。
「由岐?」
どくん。
「何?」
「出かけるの?」
「うん、祭り行ってくる」
声は震えなかっただろうか。母親にそう伝えてふと玄関の鏡を見た。映った自分は、ただの量産型。
どこにでもいる中学3年生は見なかったことにして――溜息を零して家を出た。
最初のコメントを投稿しよう!