約束は花火の下で

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 それから3年が経過した。小学6年生だったぼくはいじめの手から逃れるために地元から離れて私立の中学に入学して、それとなく生きている。  ほんとうに、それとなく。  やりたいこともなく、周りに合わせて、笑いたくない時に笑って、食べたくないものを食べて、似合うと思ってもいない髪型にして。  それが「世界」の一部であるために必要だったから。もう二度と、地獄は嫌だったから―― 「……でも、それにももう疲れたんです」  夢もなく、好きなこともなく、そんな状態でただ息をする日々。  何のために生きているのか、分からなくなった。 「だから、……死のうと思った」 「うん」 「でも、……ひとりで死ぬのは怖いから……後戻りできないくらい、人がたくさんいる場所で死んでやろうって」  顔があげられない。ぎゅうと握りしめたズボンはもうシワだらけだ。 「すみません、きかれてもないのに……」 「いいの。そういうのは、溢れちゃうものだから、我慢しちゃダメなの」 「……子どもだなだって、思いました?」  ああ、ぼくはずるい。ミナミさんならきっとぼくのことを傷つけないと思って、期待してそんな言葉を吐いている。
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