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「思わないよ」
その言葉にほっと安心して、また少しだけ提灯の灯りが涙で霞む。
「由岐」
「……はい?」
「ごめん、わたし嘘は吐きたくないから、正直に言うね」
「……え?」
驚いてミナミさんの方を見たぼくに、彼女はまっすぐにお祭りの喧騒を見ながら言葉を紡ぐ。
「人間なんて、生きていたら死にたくなるくらい苦しくなることが何度もある。全部が嫌になって自暴自棄になることだって、この先何度もあるよ……由岐はもしかしたら、大人になればなくなると思っていたかもしれないけれど、そーゆーのって、別に大人になったらなくなるってわけでもないんだ」
「っ」
ぼくが思っていた言葉と違う。ミナミさんは、残酷な未来をまっすぐに語る。
「その時の辛さは人それぞれだから、もうこんなことしないで、なんてことは――赤の他人のわたしには言えない」
そんな。さっきまであんなに励ましてくれていたのに、どうしていきなり突き放すんだ。
愕然とした思いが気配に出てしまったのか、ミナミさんは小さく笑ってぼくの方を振り向いた。
「でも、代わりにわたしがあげられるものを由岐にあげる」
「えっ?」
ミナミさんがくしゃっと笑った。
「由岐、一緒に、死のう」
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