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聞き間違いかと思った。
「今、なんて?」
「一緒に死のう、ってそう言った」
聞き間違いじゃなかった。
「……っ、あはは! 何その顔!」
「い、いやっ、え? 確かにぼくはさっきひとりで死ぬ勇気がないってそう言ったけど、」
何も一緒に死んでくださいってお願いしたかったわけじゃない。
「はー面白い。まだ続きがあるから、落ち着いて」
ひとしきり笑ったミナミさんは、ぼくを見ながら言葉を続ける。
「一緒に死のうって言ったけど、でも、今すぐは死なない。わたしは自分の居場所にどうにかして戻らなきゃいけないし、やりたいことだってたくさんある……由岐の描いた漫画も読んでみたいし」
どこかで花火が上がった音がした。煌びやかな色に、人々の歓声が舞う。
「だから、約束しよう」
赤と緑の光の中で、差し出された小指。
「わたしに逢うために、ちゃんと生きて。ちゃんと生きて、未来のわたしに逢いに来て」
ちゃんと、生きて。
ミナミさんに、逢いに行く。
「お互いに全部やり遂げたら、一緒に死のう。それまでは、頑張ろう。わたしも頑張るから。どれだけ辛くても、ひとりじゃないって思って頑張るから」
ひとりじゃない。その言葉は、ぼくの胸の奥のわだかまりを柔らかく包みこむ。
どうしてだろう。哀しくなんてないのに、目頭が熱くて、鼻の奥がツンと痛むんだ。
「約束」
「……はい」
小指が絡む。瑞々しい感触にどうしてか心臓のあたりがぎゅっとした。
全部、夏のせいにした。
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