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***
「……美波」
「…………ん」
わたしを呼ぶ声に、そっと目を開く。
ぼんやりと戻って来る喧騒、ああ、そうだ、わたしは花火大会に来ていて――そのとき、自分が誰かにもたれかかっていることに気がついた。
「ッ」
「いきなり動いたらだめだよ」
肩に乗る優しい手。
「――……由岐」
目の前で柔らかく笑うのは、久しぶりに会う、わたしの恋人。
「美波ったら、熱中症で倒れたんだよ。目の前にぼくがいたから良かったけど。ちゃんと水分取らなきゃ」
大きな手のひら。甘い薫り。まっすぐな黒髪から覗く、優しい大きな瞳。
ああ、由岐――由岐だ。
あのね、由岐。
わたし、タイムスリップしたんだよ。そこでね、子どもの頃の由岐に逢ったよ。でね、約束したんだよ。
言いたいことがたくさんありすぎて、ひとつも声にならない。ただ、吐息だけが零れていく。
「ふは、」
焦っているわたしに、堪えきれずに笑い出した由岐。艶やかな黒髪が揺れる。
「ゆ、由岐、あのね――」
言いかけたわたしを包むのは、大きな熱。
「約束、果たしに来た」
耳元で落とされたその言葉に、どくん、と心臓が大きく鳴った。
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