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あれは、夢じゃ、ない。
「美波、待たせてごめん」
ゆるやかに笑いながら、由岐はわたしを見下ろす。涙で視界が滲んでいく。
ああ、ずいぶん、大人になったんだね。
「……由岐、生きててくれて、逢いに来てくれて――ありがとう」
声が震える。どうにか喉に力を入れる。
ぎゅう、ともう一度抱きしめられる。ああ、由岐。
「こちらこそ。あの日、ぼくを助けてくれて、ありがとう」
わたしを抱き締める由岐の腕が震えている。そっとその背に腕を回して、とん、と優しく叩く。さっきまでの中学生の由岐にしていたみたいに。
「美波がくれた約束が、たったひとつの生きる意味だったんだ。だからぼくは、夢を諦めずにここまで来れた」
腕の力が弛んで、そっと離される。綺麗な横顔が見える位置で、だから、と由岐は笑う。
「美波がこれからも頑張れるように、新しい約束してもいい?」
「え?」
「だめ?」
「い、いいけど……」
何を言い出すのだろう、と目を瞬いていれば、少しだけ照れたように目を逸らした由岐は、そっとポケットから小さな箱を取り出した。
「ゆ、き?」
「美波」
刹那。
花火が上がって。
喧騒が舞って。
夏風が、頬を撫でる。
「最後まで、一緒に――生きてください」
わたしの薬指にはまった指輪に輝く宝石が、打ち上げられた花火の光を散らしてキラキラと輝いていた。
<了>
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