約束は花火の下で

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 今日は花火大会だった。この辺ではわりと大きな花火大会だから、たくさんの人が訪れる。 「コラ! 水分取らなきゃだめでしょ」 「熱中症になんかならないもん!」  どこかの家族の会話が聴こえてきて、ああ、今時の小学生は熱中症という言葉をあんなに当たり前につかうのか、なんてことを思う。  ぼくが小学生の頃は、そんなに知られてなかったんじゃないか? 3年と言う月日は短いようで長い。時間の流れは怖いものだ。  現にぼくも、こうして量産型になっている。3年前は信じられなかったことだ。  ぎゅっとポケットの上からカッターを触る。その四角い感触だけが今のぼくのすべてだ。  そう。ぼくは今日、花火大会でにぎわった最中、このカッターで腕を切って――死ぬんだ。  そう思った時。  ぽん、とぼくの肩に誰かの手が乗っかった。 「きみ、ちょっと」 「え?」  驚いて振り向けば、そこにいたのは、紺色の制服に身を包んだ警備員の2人組だった。 「そのポケットの中に入ってるものを見せてくれないかな?」  え? バレた? まだカッターすら出してないのに、何で?  こういうところにいる警備員はこんなに目ざといのか。それともぼくが挙動不審だったのか。  どく、どく、と心臓がうるさく鳴ってくる。比例するように冷汗が背中を伝う。
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