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(九)出会い
うわーっ、なんてきれいなんだろう……。
サクラの木の下で、サクラの花を見上げた哲雄は、花に見惚れ笑みをこぼした。丸でサクラの木に笑い掛けるように。
木漏れ陽がそんな哲雄の顔を、眩しく照らした。春風がサクラの枝を揺らして、キラキラと木漏れ陽が揺れた。
『うわーっ、カッコいい』
思わずサクラがもらした呟きである。サクラの方も、ため息と共に哲雄に見惚れた。
『わたし、この人好き……』
その時サクラは、哲雄に一目惚れしたのである。初恋。樹齢二百五十三年にして、サクラ初めての恋であった。
時は日暮れ間近。哲雄はそろそろ、孤児院に帰らねばならない。後ろ髪引かれながら、哲雄は名残惜しそうに歩き出した。すると背後から声が……。
「待って」
その声に哲雄は驚き、足を止め振り返った。いつのまに現れたのか、そこにはひとりの少女が立っていた。桜の花びらにも似た、何とも可憐な美少女である。年の頃は十三歳。薄いピンクの桜の花びら模様の、白いワンピースを着ていた。
その少女こそ誰であろう、サクラが人間に化身した姿である。
サクラはそれまで一度として、人間に化身したことはなかった。樹齢二百五十三年にして初めての恋、そして初めての化身なのであった。
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