花火

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和哉は線香花火を眺めながら、不思議そうな声でそう言っただけ。 「…名前とか、歳とか、明らかトー横キッズなのに、なんも聞かないから。」 「んー、言いたくないなら、言わなくていいんじゃない?」 「そういうわけじゃないけど、ただ聞かれなかったから、答えなかっただけ。めんどいし。」 「じゃあ、言える範囲で教えて?」 「みんなは舞って呼んでる。 歳は17。家出して何年かな…。」 「舞ね。おっけ。それだけわかれば十分。」 「…うん。」 最後の線香花火が終わった…。 帰り道、私は和哉に聞いた。 「この辺、まだやってるスーパーないの?」 「あるけど、なんか欲しいの?」 「その手じゃ料理できないでしょ。 四万のお礼にご飯作る。」 「まじ?気にしなくていいのに。」 「いーから!」 スーパーに寄って、卵と細切れの鶏肉、玉ねぎと、そしてケチャップを買った。 「オムライスー!!」 ハイテンションな、和哉を見て、飲んでもないのに笑ってた…らしい。 「いいね。」 「何が?オムライス?」 「ううん、舞の笑顔。」 自覚がなかったから、急に顔が熱くなった。 …違うの。 私がオムライス食べたかったの。 そう言おうとしたら、涙がこぼれた。 「どうした?!」 「なんでもない!!寝る!」 「え!舞?!大丈夫?」 ベットに潜り込んで、布団を頭からかぶった。 違う。 違う。 本当は"和哉と"オムライス食べたかったんだ、私。 なんか胸が苦しくて、涙が流れた。 自分の感情がなんなのかわからなくて、泣きじゃくった。 きっと和哉にも聞こえてたはずなのに、和哉は何も言わなかった。 翌日は、和哉の仕事復帰日。 昨日の気持ちに整理がつかないまま、夕方を迎えた。 「そろそろ行かないと。」 和哉は髪にアイロンをかけながら、言った。 「だね。なんか、ありがと。」 「渡したいものがあるんだけど。」 「なに?お金ならもーいーよ。」 「違う、これ。」 和哉の差し出したのは、鍵だった。 「この家の合鍵。 行くとこなくて困ったら、おいで。 毎回二万ってわけにはいかないかもしれないけど、キモいおっさんと寝るよりいいでしょ。」 「いーの?」 「いいから渡してるの。 そのかわり、LINE教えて。 俺、帰れない時もあるから、そういう時だけ連絡したい。」 素直に携帯を出して、QRで交換した。 なんでかな…。 一緒に電車に乗って、またあの街に戻る。 普通なら「時が止まればいいのに」って思うんだろうけど、1人はやっぱ寂しい。 和哉だって仕事あるし、トー横は楽だし。 和哉は。 和哉はどう思ってるんだろ。 〜新宿、新宿〜 「ごめん、ここからは一緒に行けない。」 「うん、誰かに見られたら、仕事困るっしょ?」 「ごめんな。でもいつでも待ってる。」 そう言うと、和哉は、雑踏の中に消えていった。
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