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そんな約束をしたまま、何年間も忘れていて、結局果たせなかったことを思い出す。
巧が言った。
「えー。じゃあ僕、その冬のウナギが食べたい」
「そうだなあ」
匡久は呟く。
「よし。じゃあ、秋になったら休み取るか。
それで、一緒に行こう。かなくんと、おじいちゃんとおばあちゃんと五人で」
昔は休みの日だろうと、電話一本ですぐに職場に呼び出されていた。
あの頃と比べれば、呼び出しのない「完全な休暇」も、今は比較的取りやすい。
「やった、やった」と巧が幼児のように飛び跳ねる。
「たとえ商業戦略に乗せられてるんだとしてもさ、」と言った、まりえの言葉を思い出す。
「『楽しければいい』って、否定的な言葉に聞こえるけれど、ものによっては、それでいい部分もあると思うんだよね。見極めることはしないといけないんだろうけど。思い出があるって、素敵なことだし」
丑の日は、それでいいのかもしれない。
はしゃいでいる巧を見て、こんなことも思い出になってゆくといいな、と匡久は思った。
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