あの日の花火-一分間の魔法-

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母の最後の退院の際は、どうしてももう一度あなたに来ていただきたくてわがままを言って皆様にご迷惑をおかけしました。お耳に入っていますでしょうか? 思いつめると周りが見えなくなる性格で、事業所に直談判に伺ったのです。ちょうどお忙しい時期にあたっておられたとのことで再会はかないませんでした。兄に、私たち以上にあなたを必要としている方々がおられるのだと諭されて、目が覚めました。 もちろん、私があなたにお会いしたかったのは、あなたの魔法のためではありません。魔法とあなたを切り離して考えることは難しいのかもしれませんが、私たちは本当にあなたという人に救われていたのです。 実は、気管切開をしないという母の選択にどうしても納得がいかず、あなたにお話を聞いていただきたい、そして母をとりなしてもらいたいと思っていたのです。あなたのお話なら、母も素直に耳を傾けてくれるのではないかと、そう思っていました。 でも、そんなことは家族で決めることですね。退院後も何度も話し合って、どうしても最後まで納得できなかった私をおさめたのは、母が文字盤で伝えてくれた言葉でした。 「はなび、たのしかった、もうじゅうぶん」と。
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