あの日の花火-一分間の魔法-

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母のことをお伝えしたくて筆をとったのですが、すこし私自身のことを書かせてださいね。  はじめてあなたにお目にかかったのは、肺炎での入院後に、バイパップというあのマスクの呼吸器をつけた母を、家に連れて帰って間もないころでした。病気がわかり、主治医の先生にもあきれられるほどいくつもの病院をまわって、治らない病気だとやっと認められたころの突然の肺炎でした。母を家に帰してやりたい一心で、夫や娘のことも顧みず、実家に泊まり込んでの介護生活が始まりました。なぜ自分たちがこんな目に合うのかと行き場のない怒りと、もどかしさ、その上にゆっくり眠ることもままならない生活で、娘はあの頃の私を修羅のようだったと言っております。  いつもなら素直に聞ける兄の意見も耳に入らず、スタッフの皆様のこともどこまで信用していいのか、当初は疑心暗鬼で、今振り返ると恥ずかしい限りです。白状しますけれど、あなたのこともお若いしこんなにきれいな手をしているのは介護経験の浅い証拠だ、信用できない、なんて思っていたのです。  でも、兄と大喧嘩したあの夜、家にいてくださったのがあなたで本当に良かった。きっと、ほかの誰でも、あのしっかり者の加西さんでも優しい幸村さんでも私を抑えることはできなかったと思います。それくらい追い詰められていたし、限界だったのです。  
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