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急遽予定を前倒しして、景子は慌ててカフェの階段を降りて出口に向かった。
本当はもうしばらく、ここからこっそり彼の様子を眺めて過ごすつもりだった。広美が言ったように、まるで"中学生の恋愛"のようだ。校庭にいる好きな人を教室の窓から眺めるように、カフェの窓から彼を眺め、彼の些細な行動に一喜一憂しながら胸をときめかせていたのだ。
しかし、彼からすれば景子は"ただの通りすがりの人"若しくは"どこかで会ったかもしれない人"に過ぎない。このまま顔を合わせなければ、きっと忘れ去られてしまうはずだ。
店を出ると彼の姿が見えた。今日もまた、青信号を見送っているようだ。
呼吸を整え髪を整え、景子はゆっくりと横断歩道を渡り始めた。
ちらりと視線を向けると目が合ったが、彼は横断歩道を渡りそうな気配はなく、立ち止まったまま動かない。そのまま景子は横断歩道を渡り終えた。
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