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「え? 覚えてないんですか?」
景子は少し意地悪なことを言ってみた。
「ほんとすみません……ずっと考えてたけど全然思い出せなくて……」
彼は気まずそうな顔をして、頭を掻いた。
その様子を見て、景子は思わず吹き出した。
「え?」
そう言ったまま彼は固まっている。
「ごめんなさい! 本当は私が一方的に知ってただけなんです。この前あなたが、車道に飛び出した男の子を助けてたの見かけて……」
「何だ……そうだったんですか。おかしいと思ったんです。こんな綺麗な人、一度見たら絶対忘れないと思うから……」
「え……」
彼からの思いも寄らない言葉に、景子は頬が紅潮するのを感じた。
「あの……名前聞いてもいいですか?」
はにかみながら彼が言った。
「あ……景子です」
「俺、隼人です。今井隼人。二十七です」
「あ、私のほうがニつ上です」
「じゃあ……景子さん、あの……連絡先も聞いて大丈夫ですか?」
「え、あ……はい」
連絡先を交換して別れたが、あまりにも事がうまく運びすぎて、景子は少し不安になった。
こんなにあっさりと連絡先を教えてしまうのは良くなかったのだろうか。クールな女は、軽くあしらったりするものなのだろうか、と考えながらぼんやり歩いていると、メッセージの着信音が鳴った。
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